【完】淡い雪 キミと僕と
スーパーから買って来た食材の入った袋をキッチンへと置くと、少しずつ夕食の用意を始める。
野菜を切っているわたしの下で、雪はちょこんと座り込み大きなビー玉の瞳でジーっとこちらを見つめる。
「あのね、雪」
ひとりの家で猫に話しかける等、1年前は思いもしなかった事。
だって、わたしは猫が嫌いだったから。
「わたしは特別な人間にはなれなかったみたい…」
そう、わたしは特別な人間になりたかったごくごく平凡な女だった。
初めは誰から見ても称賛されるような特別な人間に、そして次に誰かにとってたったひとりである特別な存在に
けれど結局そのどちらにもなれやしなかった。子供の頃に夢を見た女優さんにもアナウンサーにもなれなかったし、バリバリと仕事をこなすキャリアウーマンにもなれなかった。
ごくごく普通の山岡美麗にしかなれなかった。欲しくて欲しくてたまらなかった物、誰からの目を惹くような美しい女性ではなかったし、清い心も持ち合わせてはいなかった。
偽物である自分を誤魔化すように、楽しそうに見える毎日に、化粧品で素顔を隠し、高級ブランドに身を包んだ。それでもそんな惨めな女は数多くいる量産系の女にしかなり得なかった。
いつか雪に、雪は特別でも人より優れていなくても良いと言った事がある。今思えば矛盾している。
雪を尊いと愛するように、どうしてあの頃の自分をそのまま愛してあげる事が出来なかったのだろうか。