【完】淡い雪 キミと僕と

…意外な事に西城さんは器用だ。料理だってわたしよりずっと上手だったし、悔しいけれどペアのグラスは素敵だった。

青とピンクのグラスにはそれぞれお花の押し花が埋め込まれていた。

「これ…お父さんとお母さんに?」

そう言うと彼は照れくさそうに「ふん」と鼻を鳴らした。…恥ずかしがりやめ。

「雪にはちゅーる!!」

「それこっちでも買えるじゃんか」

けれど雪は嬉しそうな鳴き声を上げた。…アンタが喜んでいるならばそれでいいけどね…。

ところで、肝心のわたしのお土産が見当たらないんだけど?

空っぽになった袋の底の底まで覗き込むが、中にはもう何ひとつ入っていない。

探せども探せども、見当たりはしない。  袋を抱え顔を上げると、西城さんはやっぱり意地悪そうな笑顔をこちらへ向けた。

’わたしへのお土産がないわ…’そうクレームをつけようとした時だった。

「両手を出してみ」

彼に言われた通り、両手を広げる。

右手からゆっくりと落とされ、わたしの両手へ揺れ堕ちた。

淡いピンク色のガラスで作られた指輪の中には、桜の花びらのようなピンクの花弁が幾つも散りばめられていた。

彼はわたしの手からそれを拾い上げ、ゆっくりと左手の薬指にはめる。それは不思議な事にぴったりだった。



ニヤリと口角を上げた意地悪な笑いをする彼を前に、わたしは泣き出してしまった。


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