【完】淡い雪 キミと僕と

「もぉーアンタは!!
井上さん、こいつの言う事は何ひとつ聞かなくって良いですからね。
今日はわざわざ来てくれてありがとうございました。琴子さんも。
ケーキまでご馳走になってしまって、ありがとうございました」

せっかく人が予防線を張ったというのに、つくづく可愛げのない女だ。

そうして琴子と井上晴人、そして琴音猫は帰っていった。今日は散々な休日であった。

機嫌は暫く直りそうもない。ソファーにどかりと腰を下ろすと、雪は何事もなかったかのようにジャンプをし、俺の腹の上で甘えて見せた。

お前はまだいい。猫だから仕方がない。けれどな…こちらをジトーっとした目で見下ろすアンタ、アンタもアンタだ。

「なんて失礼な事を言ってくれちゃってんのよ!」

何を怒っている?怒りたいのはこっちだ。

可哀想に。アンタが井上晴人と楽しそうに話をしているのを見て、俺が傷つかないとでも思ったか?この俺が可哀想とは1ミリもアンタは思わないのか?

美麗の事を無視をして、ふいっと横を向くと、美麗は呆れた顔をしてため息を落とした。

…俺の機嫌を損ねるアンタが悪いのだ。絶対に謝って等やるものか、と雪の頬を指で撫でた時だった。

突然美麗がソファーに乗っかってきて、俺の唇へとキスを落とした。

ほんのりと赤く頬を染めて、身をかがめる。

「もうッ…本当に馬鹿なんだから。何をヤキモチを妬いてるって言うのよ。
井上さんと何かあるわけないでしょう?琴子さんがいるんだし、それに…わたしは、あなただけが好きなのよ。
いつになったら分かってくれると言うの?」


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