【完】淡い雪 キミと僕と

「アンタは少し被害妄想が激しすぎる。
食べ物で遊ぶ女よりかは100倍良い」

「だって、パパがね小さい頃…お米を残すと夜中に鬼がやってくるんだぞぉ~って脅すのッ
わたし、小さい頃は食が細かったから毎日泣きながら、ご飯食べてた…。だからその癖かな…」

あぁ、想像が出来すぎる。

子豚のお母さんと、小さな小娘を脅すお父さん。

そこに流れる、柔らかな空気感。
俺の味わった事のない、それはきっと想像以上に優しい時間なのだ。

「それより西城さん…本当にそれしか食べないの?体に悪いわよ。ただでさえ忙しいのに…」

不思議だな。

幸せな家庭に育ってきた女の言葉は、とても温かく感じる。
怒ったり、変な顔をしたり、人の体の心配をしてみたり、なにかと忙しい女だ。

「俺はいいんだ。美味しいと思ってご飯を食べた事はないから」

「何それ、世界中の美味しいもんいっぱい食ってるくせに」

「まぁな、舌が肥えすぎてるんだろう。
それよりも会社に行くのだから歯磨きはちゃんとしておいた方がいいぞ。
口が臭い受付嬢は見るに堪えん」

「だーからアンタはさ!何で人を怒らせる事ばかりしか言わないのよッ
ムカつくッ朝から気分が悪いわよ!」


そう言って、彼女は洗面所の鏡に向かって必死な形相で歯を磨く。

マウスウォッシュをして、ブレスケアまで噛んじゃって、手のひらに息を吹きかけて自分でチェック。その後小さくガッツポーズ。

本当に、面白い女だ。1番苦手な女であるのには変わりはないのだが、知れば知るほど面白い。


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