【完】淡い雪 キミと僕と
「猫のトイレちゃんと掃除してあげてね。
ミルクもちゃんとあげてね。吐き出してしまわないように優しくね。
そして可愛がってあげてね。その子とても寂しがりやみたいだから」
会社に行く前に、確認のように何度も言った。
余りに煩いもんだから、耳に胼胝が出来て、ぽろりと落ちていきそうだぞ。
心配性なのだ、きっと。心配とは優しさという感情から来るものだ。
嫌いだ嫌いだと何度繰り返していたって、その心配という感情からは、嫌いが一切感じられない。
「分かってるつの」
「じゃーね!部屋を物色したら殺すからね」
それも耳胼胝。
俺に抱かれる猫の頭を指でちょんと撫でて「猫、いってくるね」と言った言葉は今までで1番優しい。
それに応えるように「みゃあ」と鳴く。それは多分’いってらっしゃい、美麗ちゃん’だろうか。
ふと疑問に思った。
俺たちは’猫猫’とこいつを呼んでいるが、こいつにだって名前が必要なのではないかと
俺に大輝という名があるように、あいつに美麗という名があるように。こいつだけ猫だというのは少しだけ不公平ではないか。
帰ってきたら美麗と一緒に名前を考えよう。そんな事を思うほどまでに情が沸くとは正直思ってはいなかった。