【完】淡い雪 キミと僕と

わたしは西城さんのプライベートを全く知らない。

知ってる事と言えば、彼には全然らしくない想い人がいて、その想い人にはとっくの昔に振られていて、それでも彼女を忘れられず一途に想い続けている事くらいか。

けれどそれだけの想い人がいたとして、結婚を考える歳であってもおかしくはないし、健康な男子がそれなりの行為をしていれば子供だって自然と出来る。

だけど結婚や赤ちゃんのイメージは、わたしの想像する西城大輝とは全く真逆の世界に在る。


古い言い方かもしれないけれど、許嫁くらいは当たり前にいたかもしれない。

政略結婚、もありえない話ではない。

何といっても彼はわたしとは全く違う世界線を生きる、大企業の跡取りなのだから。結婚や将来さえ本人だけの物ではなかったのかもしれない。


「やっぱり、名前くらいは必要かな、と。無ければ無いでそれはそれでいいかとも思ったのだが」

涼しい顔をして、そう言い放った。

当たり前だ。名前は必要だ。

まず出生届を出さないといけない。 無ければ無いでいいかもという価値観は全く共感出来ない。

「今日は秘書に言って本屋で買ってきて貰ったんだ。何と言ってもこの猫は俺の側から離れる気がないらしく、本屋に行けやしない」

「それで何か月なのよ…?」

「まだ一月にも満たないんじゃないのだろうか?」

妊娠の経験などはない。

けれど1か月もしないうちに検査薬は反応するものなのだろうか。

つわりといった症状も人それぞれであるが、相手はかなり敏感に物事を察知するタイプなのだろうか。それともわざと妊娠をした、とか?

西城グループの社長令息との結婚を目論み。いや、まさかわたしではあるまいし。いや、わたしもこいつと結婚したいなど今になって思えば微塵も考えはしないけど。


< 69 / 614 >

この作品をシェア

pagetop