【完】淡い雪 キミと僕と
しかし分からん男だ。
どういうつもりでたかが名前如きに書籍まで購入して、真剣に悩んでいるのだろう。
猫の名前なんてタマでもポチでも何でもいいのではないのか。
家畜などと冷たく言い放つ割には、言動と行動が全く伴わない彼の考えている事などわたしにはひとつも掴めないままなのだ。そもそも理解しようとする方が間違いなのかもしれないが。
「西城健四郎と言うのはどうだろうか?」
「けんしろう…?!」
「何か強そうだろう?
それとも、西城竜馬とかも悪くはない。
俺は坂本龍馬も好きだしな」
あくまでも、苗字は自分なのね。
そこはあえて突っ込まないが、西城さんのお腹の上で小さく鳴き続ける子猫のイメージとは全くかけ離れている名前だ。
そもそも赤ちゃんの名前という本を購入しているくせに字画等は問題ではないのだろうか。わざわざ本を購入した理由も分からない。自分の好きな名前を勝手につけてればいいのではないのだろうか…?
「何かイメージとはかけ離れてるけどね」
「そうか、では考え直す」
いや、別に健四郎でも竜馬でも何でもいいんだけどね。ご勝手に好きなお名前をお付けください。
本をテーブルに置いた西城さんはキッチンへ行き、慣れた手つきで子猫のミルクを温めている。
代わりにソファーに座ると、お腹から降ろされた猫はわたしへ体を近づけて、ゴロゴロと小さく喉を鳴らした。
不思議な気持ちでいっぱいだ。
この猫の喉から出るゴロゴロ音とは不思議な物で、蓄積されたストレスや疲れが吹っ飛んでいく気がする。マイナスイオンか怪しげな物が出ているのではないだろうか。
首元を指で擦ると、更に気持ちよさげな顔をしてゴロゴロ音は大きくなっていく。