【完】淡い雪 キミと僕と
「うっさいなぁ、アンタには関係ないでしょう?!
それにもう、そんなの随分参加してないし…誘いも断ってるし…
それに…わたしには…わたしは……」
だから嫌なんだ。こいつと一緒にいるの。
こいつと同じ時間を過ごしていると、忘れたくても嫌な記憶が蘇るから。
港区で遊んでいる時はまだ良かった。
楽しかった20代前半。社会的地位のある男と美味しい物を食べて、プレゼントなんて貰っちゃって、少し調子にも乗っていた。
世界は自分の為に回っている。どこまでも素敵な勘違いに溺れる事が出来た。社会で認められている大物の男といれば、まるで自分まで凄い人間になれた気分になってしまって
けれどどこまでいってもわたしは’山岡美麗’にしかなれないのだ。すごくもなんともない。ただの会社の駒の一部で、何の肩書きもない、どこにでもいるただの受付嬢にしかなれなかったのだ。
「そうか、なら別にどうでもいい。
嫌な事を思い出させてしまったのならば、謝るよ」
きっと誰も知らない。わたしの醜い想いを彼は知っている。だから嫌だと言ったのだ。
無様な自分の無様な恋の一部を知っている男となど…一緒にはいたくないのだ。
それでも西城さんは、わたしの中にある本当に痛い部分を馬鹿にしたりするような不躾な男ではなかった。普段は口が悪く、散々人をこき使い馬鹿にするくせに、肝心な所でいつだって優しい。
だから嫌いだと言うのだ。