【完】淡い雪 キミと僕と

「実は明日は朝から会議が入っていて、どうしても会社に行かなくてはいけなくなってしまって
だから来れそうにもないんだ。それを伝えようとしただけだ。嫌な言い方をして申し訳ない」

「あっそう。別に土曜と日曜は家にいるので、猫の心配はしなくたって平気よ。
会議だろうが、女と遊ぼうが、わたしには関係のない事ですから、ご自由に」

「お前なぁー…顔はまあまあ可愛いんだから、その性格をだな…」

「うっさいつーの!心配しなくともこんな小さくみすぼらしい子猫を置き去りにしてまで遊びに行ったりしないので!」


顔が少しくらい可愛いからと何になるというのだ。

本当にみすぼらしかったのは、素直に愛を受け入れる事が出来る純真無垢な子猫だったか、それともわたしだったろうか。

数か月前に失恋をした男は、西城さんもよく知る男だった。

だからその件に関しては、彼は言葉を選ぶように慎重に話す。むしろそういう時に限って彼はこちらの顔色を伺い、滅多に話題には出さないようにしていると思う。

恐らく、人生で初めて損得勘定ナシで好きになった男。

わたしではない、別の女性を選んだ男。

あの人は、港区には絶対にいない。これと言った特徴もない、どこにでもいる、ただのサラリーマンだった。

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