【完】淡い雪 キミと僕と
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「美麗ちゃん、これ。
似合うと思って」
「わぁ、素敵。いいんですか?」
「勿論、美麗ちゃんに似合うと思って」
「嬉しいです。それにこんな素敵なバー、初めて…嬉しい。
岩井さんってやっぱりすごい人なんですね」
男は得意になって微笑った。
単純な物で、男性というのは、すごいや初めてという類の言葉が好きらしい。進んで、その言葉を使用するようにしている。心にもない言葉がぽんぽんと口から出るのは、自分の体ながらに不思議で堪らない。
だが、これで良い。
ある程度おだてて、美味しい料理を食べて、味の分からないワインやシャンパンを飲んで、高級なブランドのバックをプレゼントしてもらえるのならば、それが女としての自分の価値であると、あの頃本気で信じていた。
「美麗ちゃん、この後って」
「ごめんなさい。パパが門限にはうるさくて……」
「そっかぁ、美麗ちゃんってお嬢様だものね。じゃあこれ、タクシー代に」
お金の持っている男性はスマートだ。いきなりがっついてきたりはしない。この世界ではそういった男が重宝されると相手も分かっているからだろう。
そんな、悪いです。と言っても男は1万円札を手の中にぎゅっと握らせた。
タクシーに乗って直ぐに、あの男は無いなと思い連絡先をデリート。だっていまいち顔がタイプじゃないし、IT企業の社長つっても小さな会社だし
貢ぐだけ貢がせてポイ捨てする事に何の感情もなかった。積み重なったブランド物のバックも宝石も一時的にはわたしを輝かせてくれはするけれど、身に着けた自分に価値はない事には薄々気づいていた。