【完】淡い雪 キミと僕と
あの頃は楽しかった。
著名人に会うと自分まで凄い人間になった気分にもなれたし、自分の給料じゃちっとも手が届かない高額なプレゼントは、弱い自分を少しだけ強くさせる気もした。
遊び回り、携帯には顔も覚えちゃいない知り合いが増えて行って、ギャラ飲みや世間でいうパパ活なんかにも手を染めていて、だけど自分を安売りだけは絶対にしなかった。
インスタにキラキラとした毎日を上げて
’凄い’と顔も見たことのない人から称賛されて、ツイッターの裏垢では散々人を馬鹿にした。
友人の振りをしてお互いにマウントを取り合って、常に貶め合う事しか考えていなかった上辺だけの友達。陰ではお互いの足を引っ張り合う事しか考えていない。
それでも止められない、止まらない。幸せはお金で買える。本気で思っていた。あなたを好きになるまでは――
井上晴人は、同じ会社の、営業課の同い年の男だった。
入社当時から、同期の中では目立った存在だったから、名前と顔だけは知っていた。
180センチを超える高身長で、端正な顔立ち。西城さんのように意地悪そうな顔では全然なくて、どちらかといえば甘い。
優しさが内側から滲み出ているような、人の好さそうな男だった。
モデルや俳優並みのルックスの癖に、挙動は常に不審。いつもわたしと会うと、どもりながら背筋をピンと伸ばし、顔を真っ赤にして不器用な笑顔を浮かべる。そんな人だった。