【完】淡い雪 キミと僕と
さっして興味はなかった。
大手菓子メーカー。一流大学卒業。いつもは挙動不審だけど、仕事での評価は悪くはなかった。
営業は聞き上手であれが基本だという。
人の好さそうな彼は誰にも悪い印象を与える事なく、にこにこといつだって聞き手に回っていた事が容易に想像出来る。きっと本人が思っているよりずっと営業に向いている人物だった。
しかしとて、所詮は社会人2年目のサラリーマン。優良物件である事は確かだったが、眼中には全く無かった。
ただ慈悲を持った優し気な微笑み。彼のルックスはわたしの思い描く理想像ピッタシなのだ。西城さんなんかよりかはよっぽど。
どこか冷たい、切れ長の一重瞼のクールな彼より、大きく丸い瞳が笑ったらもっと優しくなるような彼の方がずっと好みであった。
井上晴人がわたしを意識しているのは、雰囲気で何となく分かっていたし、知っていた。
話すきっかけはなかった。彼と恋人関係になるとは思ってもいなかったし、ありえなかった。それどころか自分にはもっと相応しい人間がいるとどこまでも驕っていたのだ。
最初は、軽い気持ちだったと思う。
少しからかってやろうと言った類の愚かで浅はかな。わたしを前にして緊張して固まって顔を真っ赤にする、自分のルックスの価値に気づいていない男をからかってやろうという、本当に軽い気持ちだった。
美しさを鼻にかけた、相当嫌な女だと今にして思う。