【完】淡い雪 キミと僕と
会社で飲み会という名の合コンが開かれた。そこに井上さんも参加すると聞いて、業界人飲み会をキャンセルした。
井上さんと同期であり親友である佐伯優弥は物腰も軽やかな人で、人懐っこい笑顔を向けて「美麗ちゃん美麗ちゃん」とわたしをチヤホヤする犬のような男だった。
佐伯さんの連絡先はずいぶん昔に訊かれたから互いに交換していた。合コン前に少しだけ連絡を取っていたらそこから世間話になって、井上さんが出張の間に飼っている猫を預かってくれと言われ困っているという話を聞いた。
チャンスだと思った。家に行く口実が出来たと。
好きでもない猫を好きだと言って、わたしで良ければ預かる、と。軽はずみな行動だと冷静になって考えて後悔した。
けれど
井上さんの家にいた’琴音’という長毛種のえらく毛の長い猫。手足と口元だけが真っ白な焦げ茶トラの小生意気そうな顔をした猫は
つりあがった鋭い瞳をこちらへ向けて、井上さんの肩越しからわたしへ向かって「フー」やら「シャー」と威嚇した。
わたしが口を開くたびに、小さな体を膨らませて何故か怒り狂っていた。この井上さんが飼っていた琴音猫が、わたしの猫嫌いに拍車をかけたのは言うまでもない。