【完】淡い雪 キミと僕と

ちっとも可愛くなんかない。大体にして元々嫌いなんだ。

ショッピングモールに併設されているペットショップなどにも犬猫は沢山いる。

でも猫という生き物はガラス越しからクールな眼差しを向けて、大半はツーンとして全てを見透かしたような瞳で、まるでこちらを小馬鹿にしてるような視線を叩きつける。

そんなクソ生意気で可愛げの欠片もない生き物に数十万という高額な値をつけられ、それをわざわざお金を出して買う人間がいると言うのだから、世の中には物好きが多い。

馬鹿みたいに舌を出して、誰にでも愛想を振りまき短い尻尾を左右に忙しなく揺らす犬の方がよっぽど可愛い。



けれど井上さんはクソ生意気な琴音猫を恋人でも見るかのように優し気に見つめ、大きな手で撫でて。

お家は丁寧に整理整頓がされていて隅々まで掃除が行き届き、彼の人間性が少しだけ垣間見えた。

そして出されたコーヒーは下手な喫茶店の何倍も美味しかった。

丁寧な生活をされていますね。と彼に言ったのは、嘘つきなわたしの心からの本音だった。



連絡先を交換し、何気ないメッセージのやり取りから始まって、食事に行く約束をして
まさか港区で遊んでいたこのわたしが、どこにでもいるような平凡なサラリーマンを本気で好きになるなんて、この時は夢にも思わなかった。


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