【完】淡い雪 キミと僕と
「ちょっと感情的になりすぎた。
大丈夫よ。西城さんが心配しなくとも、こんな小さな子猫をほったらかしにしてまで遊びに出かけるほど、人間終わっちゃいないから」
「いや、それは分かっている。
アンタは優しい人間だから」
「ふんッ
わたしはアンタが思ってる通り馬鹿な女だけどね。優しさの欠片もない…」
「たくッ。たまには人の言葉を素直に受け取りなさいなって。
さぁって、俺は1回会社に寄って仕事の続きをするよ」
立ち上がった西城さんは、猫をわたしの方へ預け両手を上へ上げて大きく伸びた。
凝り固まってるであろう肩を数回揺らして、分厚い書籍をこちらへ押し付けた。
「アンタも考えておきなよ」
「は?」
「猫の名前。まぁアンタに任せたらティアラとかジュリアとかキラキラした名前にしそうだけど」
「こいつ雄じゃん。
てか、こんな時間なのにまだ仕事があるの?」
「まぁな。俺の仕事つーのは本来父親の仕事を見て学ぶ事だから、実際はあの親父にくっついてなきゃいかないのだから。
本来なら、家で出来る仕事など無い」
「何か…無理させて悪いわね…忙しいのにごめんなさい。わたしがもっと時間の融通が利く仕事ならば良かったんだけど」
玄関先で綺麗に磨かれた靴を履きなおし、くるりとこちらを向いた西城さんは少し身を屈めてこちらへ顔を突き出した。
そして大きな手のひらで、わたしの頭へ軽く触れた。