【完】淡い雪 キミと僕と
「時間に融通の利く女なら、沢山いるさ。
それでもアンタに頼んだのは、さっきも言った通りアンタが優しい人間だって知ってるからだ」
触れられた事は不服だが、それを振り払おうとはもう思わなかった。
だって目の前にいる男は、みすぼらしい子猫を優しくあやすように、優しくわたしの頭を撫でたから。悔しいけれど、居心地が良かったのだもの。
それでも素直にその言葉を受け入れられないのは、性分なのだろうか。数々の男の前で仮面をつけて、取り繕った笑顔で生きてきたはずなのに。
この男の前では、幾ら自分を取り繕っても無駄だというのは、出会った時から知っていた。
「口が巧いの、厄介なの押し付けるのにちょうど良い女だと思ってるだけのくせに」
「アンタは、厄介なものでもきっと大切にする。それを無下に扱ったりはしない。
文句を言いながらも、責任を持って面倒を見る。もう少し、自分の良い所も自分で認めてあげろよ」
アンタに言われたくない。
産まれた時から恵まれた星の下に存在出来る資格を持っている人間はこれだから。
わたしの手の中に収まる子猫に向ける視線はいつもよりずっと優しい。
だから優しいのはきっとわたしではなくて、あなたの方だ。
「明日、あらかた仕事が片付いたら、来るから」
「はぁ?!来ないでよ。土日は仕事が休みだから、面倒見れますから。
来てくれなくて結構」
「何を勘違いしてるんだ?別にアンタに会いに来るわけではない。猫に会いに来るんだ」
「べ、別に勘違いなんてしてないっつのッ。
何でせっかくの休みに、家で猫とふたりでまったりしたいのにアンタの顔なんて見なきゃいけないって話よッ!」
「いいだろ別に来るのは俺の自由だ。光熱費1万は払う」
「だから、お金の問題じゃないって話よ」