【完】淡い雪 キミと僕と
3.大輝『アンタは案外可愛らしい所がある』

3.大輝『アンタは案外可愛らしい所がある』




「吉田さん、財務経理の報告をお願いします」

少しだけピリついた空気だった。

パソコンに目を向けて、しどろもどろ説明を始めた吉田さんの額から汗が流れ落ちた。会議室の冷房は十分過ぎるほど効きすぎていると思う。思わずスーツのジャケットを羽織りたくなる程にはだ。

だけども…、なので、こういった訳でと、言い訳染みた事を繰り返す吉田さんは額に豆粒のように浮かび上がる汗をハンカチで何度も拭った。

説明が長い、というか、要点を押さえていない話し方と言うか、聞いていて思わず欠伸が飛び出してしまう程だ。

伝えたい事を簡潔にそして正確に伝えれる人間は頭が良いのだと思う。まどろっこしいったらありゃしない。

吉田さんの話を一通り聞き終え「もういい」と言ったら彼は安堵の表情を浮かべてふぅっと小さな息を吐いた。

「ユーラクホテルを吸収する方向で話を進めて下さい」

「はいッ!」

挨拶だけは清々しい男だ。横に座る会長、つまりは自分の祖父へと目配せをする。

「会長、それでよろしいでしょうか?」

「お前に任せる」

座っているだけで貫禄がある男だ。この人の一言は重いのだ。

白髪交じりの髪の毛。金色の縁の眼鏡。黒い皮の椅子に背を預け、脚を組み手元の資料にも目もくれず、集まった社員ひとりひとりに鋭い眼光を向ける。

人を威圧させる雰囲気と言うのだろうか。正にこの場を支配しているのは彼そのもので、70歳を超えるというのに、衰えのひとつも感じさせられない男だ。

対称的に祖父の隣に座っている父親は、やっぱりどこか頼りなげで身を小さく縮こませ話に耳を傾ける、振りをしている。きっと。心の奥底では眠たい、早く終われ等と願っているのではないのか。

どちらかというと飄々としている人で、自分の父ながら掴みどころのない人なのだ。祖父は、自分の息子である父が気にくわない。だから、その父の息子である俺へと寄せる期待は中々重たい。


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