【完】淡い雪 キミと僕と
会議終わり、祖父は俺の肩を叩き会長室へと消えて行った。
周りからは、父よりもこの祖父に似ているとよく言われる。従業員もそう思っているに違いない。
確かに自分は父にも母にも余り似ていない。かといって祖父に似ているかと問われると、自分ではよく分からない。
周りが似ていると言えば、似ているのかなぁと思ったりはするが、客観的に自分を見るというのは中々に難しい。
会社では専務という大層な役割を与えられているが、している仕事と言えば父親の仕事の付き人といったような物で、かなり自由はきく。
無能のボンクラと影で従業員に叩かれでもしてるんじゃないかと思っている。だって基本は好きに生きているし、苦労をしている人に比べたら、何倍…いや何100倍も楽をしてこのポストに居座っているのだから。
土曜日。父の予定に合わせ、会議に出席したり、取引先へ出向いて、懇親会で挨拶に周り、ネットワークを広げる。
気が付けば、時刻は21時を過ぎていた。
…シャワーを浴びたい。
腹も減った気がする。そう言えば、朝から何も食べていない。
基本的に3代欲求と言われている、食欲も睡眠欲も性欲も欠落してる気がしてならない。腹が減れば適当なもんを食べて、眠くなったら短時間寝て、ヤリたくなったら誰かで性欲処理をするだけ。
そこに嬉しいとか美味しいとかそういった感情は特別無い。
美麗の家に行こう。
シャワーも借りよう。光熱費を払っているんだから、文句もないだろう。
そして子猫に会いに行く。
損得勘定なく想いのままに甘えてくるあの小さな子猫。あいつといる時間は、地味に自分の安らぎになっていた。
あの子といる時間、仕事の事や自分の環境について忘れられた。
猫というのは不思議な生き物だ。けれど人がペットという何も出来ぬ足手まといを大切にする気持ちがほんの少しだけ理解出来るようになってきた今日この頃。