【完】淡い雪 キミと僕と
「なんしよっと!!!
デリヘル嬢や言うとるやろ!!!
いくらお金積まれても本番はせん言うとるやろ!!!」


これは…何弁だ?九州?

いや、今はそんな事を考える余裕すらない。

その場で体を丸め震えあがる姿は、傍から見ればかなり情けない姿だと思った。

顔だけをゆっくりと上げて、彼女を睨みつけた。途端に彼女の顔が青ざめていくのが分かった。
なのに次の行動といったら、ベッドに舞い散る1万円札を2枚手に取り、「おつりだ」と言わんばかりに律義に財布から取り出した小銭を投げ捨てて、時間内の報酬だけを奪い去って、風のように逃げて行った。



最低最悪だ。こんな屈辱を味わったのは初めてだ。

その話を隼人にしたら、隼人は人の気も知らずに大笑いし、そりゃお前が悪いと言った。

クレームのひとつでもつけたくはなるもので、あの女がこの俺にこんな態度を取っただとか、あの女はちっとも可愛くないなど、気が付けば、琴子の話ばかりをしている自分がいた。



そんな俺を見て「何か元気が出たみたいで良かったよ」とだけ言った。

そう言われて、ふと気が付いた。疲れていたんだ、とても。日々の事についても、やりたくもない仕事にだって、そして何より西城大輝という星の下に生まれてしまった自分自身に疲れ切っていた。

誰も知らない場所に行って、別の誰かに生まれ変わりたかった。

けれど怒りとパニックでそんな憂鬱はどこかへ吹っ飛んでいってしまったようだ。



そして数日後、再びリップスのココを指名で呼んだ。特別な感情がなかったといったら嘘になるだろう。

けれど、もう一度会いたかったんだ。そして確かめたかった。彼女は何を想いどうしてこの場所にいるのか。何故お金に溺れている馬鹿女のはずが、100万を叩きつけ、自分の仕事を全うし続けたのか。

少なくとも、俺の周りにはあんな女はひとりとして居なかった。


――――
―――――



< 92 / 614 >

この作品をシェア

pagetop