【完】淡い雪 キミと僕と
未練たらしくも、馬鹿な事を思い出してしまったもんだ。
とっくに振られていると言うのに、美麗の井上晴人を強く強く思っている感情が伝わってくればくるほど、俺の中の琴子はついて回るのだ。
だから、美麗とは一緒にいるべきではない。互いの傷を抉り合う形にしかなり得ない。
それでも車を走らせ、彼女に会いに行く理由は猫がいるからだ。それ以上の理由があってはならない。
「何よッ」
お風呂から出たばかりなのだ。玄関でさっそく悪態をつく美麗の手の中には小さな子猫。
ちっとも成長しやしない、子猫。そりゃ1日2日で大きくなられてもビビるだけだが。
玄関で立ち尽くし、ぼんやりと美麗の顔を見つめていたら、彼女はハッとした表情を浮かべ、猫を盾にして顔を隠した。
「出てないわよ。だって処理したし」
あぁ、鼻毛の事か。
そんなに気にしていたか。親切のつもりで教えてやったまでだったのだが。
人間だから、鼻毛くらい出る事もある。気にする事ではない。毛というものは必要があるから体に備わっているのだから。
どんなに美人でも、毛の処理を怠る事はある。まぁこんな説明をした所で彼女を怒らせている事は目に見えているから、無言で家に上がり込む。
それはそれで何か気に入らなかったらしく「何なのよッ」と俺の後ろをついてまわり犬のようにキャンキャンと吠える。