【完】淡い雪 キミと僕と
「お風呂を借りる。シャワーを浴びたい。
光熱費の1万だ」
そう言って財布から1万円札を取り出すと「いらない」とだけ言って不機嫌そうな表情を浮かべた。
「だって来るたびに1万も貰ってたらパパ活みたいじゃない。
光熱費なんてそんなにかかんないし」
「俺がアンタのパパか、それは笑える」
「もぉー!笑いごとじゃないでしょう!貢がれるのは結構だけど、理由もなくこんな大金受け取れないって
それよりシャワー浴びるならお好きにどうぞ。言っておくけど着替えはないからね」
1万は突っ返され、促されるままに浴室へ行く。
頭から熱いシャワーを浴びて、さっきまでの事を思い返していた。
忘れよう。未練たらしく過去を思い出してしまうのは、美麗の想いが強く過ぎるせい。それに感化されているだけなのだ。
欲しがっても欲しがっても手に入らない物は、この世に確実にある。欲しいと願えば願う程、手に入れる事が出来ない。いらない物ならば、有り余るほど手に入れていた自分なのに。
浴室から出ると、ぎゃあぎゃあ騒いでいたくせにバスタオルが用意されていた。
ぽいっと乱雑に投げ捨てられるように置かれていたけど、ふわりと柔軟剤の優しい香りが鼻いっぱいに広がっていく。
趣味が悪いと思っていたピンクの花柄も、慣れてしまえば悪くはない。なんというか、美麗らしい。
パンツ一丁でリビングへ行くと、そこにはテーブルの上に置いた買ってきたピザを前に口をぽかんと開けた美麗のアホ面。
横で、子猫が美麗に何かを訴えるがごとくウロチョロ動き回る。構って欲しいのか、その場で倒れて見たり、パッと両手両足を拡げて見たり、実に可愛らしい。
こちらに気づいた彼女が顔を真っ赤にして、首を横に向けた。