【完】マイルドビター
「そんなん持っていってどうすんのさ」
『どーしようね、また食器棚の一番奥かな』
タバコの煙を吐き出しながら笑う弘樹。
捨てちゃえばいいのに、喉まで出かかった言葉は飲み込んだ。
弘樹から吐き出される煙の匂いは、苦くて辛くて、あたしは得意じゃない。
少しむせると、ごめんね、と弘樹はあたしの頭をポンと撫でてベランダに向かう。
今日で最後、なんて思ったら、なんとなくさみしい気がしてあたしもついていく。
『えー、ひなちゃん、ついてきちゃったら俺移動した意味なくなっちゃうよ』
屈託のない笑顔は眩しくて、目を細めて、うん。ごめんね、って呟く。