【完】マイルドビター


『ひなちゃん、』


うつむくあたしの頬に、弘樹の手が触れる

タバコは弘樹の手から離れ、灰皿の上でゆらゆらと煙を立てている。


『愛してるよ、ずっと』


前髪をかきあげられて、おでこにキスされる。


『ひなちゃんのこと、たくさん傷つけたけど、たくさん泣かせたけど、だけど俺はひなちゃんだけだった。これだけは、信じてほしい』


都合が、良すぎる。

今さらそんなの、信じるわけないじゃん。

髪の毛を撫でられ、後ろ首に手のひらが当たる。
逆の手で頬を撫でながら、弘樹の唇が触れる。

変わらない癖。
いつもそのキスの仕方。

あたしが、好きだった、キスの仕方。


「苦い、」

『ん、俺のキス覚えて、ずっと忘れないで』

「イヤ。もう弘樹なんか嫌いだもん、忘れるよ」

『だめ、覚えてて。俺しか見えなくなって、後でいっぱい後悔して、そんで俺のとこ戻ってきて。ずっと待ってるから、日向のこと』


< 6 / 10 >

この作品をシェア

pagetop