【完】マイルドビター
山盛りの灰皿を灰皿ごと袋に入れる。
テーブルの上にあるチューハイの缶を持つと、微妙に残ってチャプチャプ音がする
これは確か、昨晩あいつが飲んでたやつか。なんでこう、変な風に残すかな。
「ほんと、嫌い、こういうとこ」
部屋に充満したタバコの香りを窓を開けて逃す。
俺とひなちゃんすぐ鍵なくすからここ鍵置き場にしよ、なんて話していたカラーボックスの上には返された合鍵がポツリと寂しそうに置かれている。
がらんと物がなくなって、狭いと思ってたこの部屋は、一人暮らしだと案外広いんだなぁなんて、弘樹が残していった変に余った缶チューハイを飲み干して思った。
うん、まずい。
ぬるくなって炭酸の抜けたチューハイの缶をゴミ箱に捨てる。
あたし嫌いだった。
おそろいのマグカップも、真剣に何かしてるときはあたしの話なんかちっとも聞いてくれないとこも、いっつも飲み物微妙に残すとこも、あの噛みつくような情熱的なキスも、あたしに触れるあの温度と感触も、全部さ。