君を愛してはいけない。
ただ、包帯をしていようと点滴を付けていようと、今の彼は本当に本当に美しくて。


神々しいその羽があるからか、輝いている様にも見える彼はもう人間にすら見えない。


だからなのか、知っているはずの彼が知らない人に見えてしまって、涙が溢れて止まらない。


「…ごめんって、そんな顔すんなよ」


けれど、困った様に頭を掻きながら笑う彼は、私の知っている伯だった。


「………死ぬの、?」


頭のどこかではこれが夢だと思っているのだろう、私の声は震えているけれどしっかりした響きを持っていた。


「…死ぬけど死なない、元居た場所に戻るだけ」


ひひっと笑った彼は、瞬きをせずに伯を見つめたままの私の頭を撫でた。



「それって、私のせい、?…私がキスしたからだよね?私がキスしなかったら、伯はまだ此処に居れた、?」


彼の温もりが頭から無くなった瞬間、私はせきを切ったように彼に泣きながら質問を浴びせた。


これがまだ信じられないし、どこまでが夢かも現実かも分からなくて。


けれど、ただ現実でも雷が鳴っていた事は確かで。


「…そうだな、桃花がまだキスをしなかったら俺はまだこの世界に居れた。…けど、お前がキスをしなかったら俺はこんなに早く目覚めなかったと思う」


まるで白雪姫の男女逆転バージョンだな、と、彼はこんな状況にも関わらずにやにやと笑うから。
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