君を愛してはいけない。
とはいえ、まだ意識も戻っていないし酸素マスクも必要な状態だ。


頭に巻かれた包帯にはうっすらと赤が染み付いている。



「…伯、そろそろ起きて、?」


外はしとしとと雨が降っている。


「私、…早く伯の声聞きたいのに、」


あなたが命懸けで守った小さな子供は、軽傷で済んだから。


それを1番に伝えたくて、それを聞いて誰よりも喜んで安心するべき人は、伯、あなたなのに。


(あの子供も親も、私の家族も伯の家族も、友達も、皆、伯の事を待ってるの)


毎日毎日、学校帰りで疲れていようが眠かろうが、私は1日も欠かす事なくこの大学病院に足を運んでいる。


もはやこれが放課後のルーティーンの様なものになり、面会禁止時間の午後8時まで病院に1人で居るのも慣れた。


伯の眠る504号室の場所だってすぐに覚えたし、目を瞑ってでも行ける自信がある。



けれど。


「…こんなのルーティーンにしたくないし、しちゃいけないし、変な所で自信持ちたくないし、こんな生活に慣れたくないのっ、!」


ベッドで静かに目を閉じる彼の左手を握りながら、私は嗚咽を漏らした。



いつだったか、伯の状態を説明していたお医者さんの言葉は暗号の様にしか聞こえなくて何一つ理解が出来なくて。
< 3 / 14 >

この作品をシェア

pagetop