君を愛してはいけない。
「………あ、」
雷の鳴る音を聞きながら伯との数々の思い出を思い返していた私は、ふと声をあげた。
(そういえば私達、キスした事ない、)
付き合って3ヶ月だし、まだ未熟だというのもあって、お互い手は繋いだ事はあってもキスをした事は1度もなかった。
とは言っても、ロマンチックな事に憧れを抱いていた私は、何度か彼にその事についておねだりをした事もあったのだけれど。
彼は、
「まだ早い」
「今はそういう気分じゃない」
「また今度」
の一点張りで。
私が落ち込んでいるのも分かっているはずなのに、彼はたまに冗談めいて、
「俺って元々天使でさ、人間に恋して地上に降りてきた堕天使なんだよね。だから、人間とキスしたら死んじゃうから出来ないんだよねー。ごめーん」
と、自身の背中を指差しながら笑って、キスの話題から遠ざかろうとした事もあった。
彼の背中ー両肩甲骨辺りーには、約30センチ程の傷が縦に伸びている。
私が初めてそれを見たのは付き合ってすぐにプールに遊びに行った時で、前を歩く彼の背中についた左右ほぼ対称のそれを見た時、私は驚いて言葉を失った。
その場に立ち止まったまま動かなかった私に気付いた彼は、
『あれ?どーしたん?』
怪訝そうに振り返って。