君を愛してはいけない。
数秒間だけ酸素マスクを外すくらいなら、彼の身体に問題は起きないだろう。


これで彼の身に何か起きたら責任も取れないのに、何とも軽い判断だけで行動に移してしまうなんて、と少し後悔の念が渦巻いたけれど、この気持ちには抗えない。



「っ、伯、大好きっ、…」


椅子から身を乗り出した私は、伯の色白の頬に手を当て、そっとその柔らかい唇に自分の熱を落とした。


2週間も口を動かしていないわけだから彼の唇は乾燥しているかと思ったら、予想外にそんな事はなくて。


酸素マスクのおかげなのか元々の体質なのか、彼の唇は潤っていて、一度吸い付いたらもう離れない。


「ん、っ……」


唇と唇が触れ合うくらいで終わらせる予定が狂い始める。


終わらせたくない。


この至福の時間を、誰も拒否をしないこの時間を、誰にも取られたくないし終わらせたくない。


(幸せ、っ…)


私が伯の顔に手を当てながら束の間の幸せを噛みしめていた、その時。



「………キスしちゃ駄目でしょっ、…」


彼の身体がもぞもぞと動きだし、横を向いて私の唇から逃れた彼の口が掠れた声を吐き出した。


「え、っ……!?」


急な展開に、私の頭は全く追いつかない。


「桃花、俺とキスしちゃ駄目なんだよ、…」
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