君を愛してはいけない。
一気に身体の力が抜けて訳が分からずにすとんと椅子に座り込んだ私と、顔だけこちらを向いている伯の目が合う。


「嘘でしょ、伯……?夢じゃないよね、っ?」


「…夢だったらどれ程良いことか」


伯が目を覚ました喜びで既に目の前の景色が涙のベールで覆われている私と、意味深な台詞を吐き出す彼。


「待って、酸素マスク、!」


「そんなのもう必要ないよ…、」


興奮して立ち上がり、酸素マスクの話題を出しながらナースコールを押そうとする私を、伯はゆっくりと制した。


「今は大丈夫、ナースコールはもう少し後で押してくれる?………なあ桃花、俺、お前ともっと長い時間ここで過ごしたかった」


急なその台詞に、嬉し涙を拭っている私は眉をひそめる事しか出来なくて。


「伯、何言ってるの?ねえ、伯は目を覚ましたんだよ、何でそんなこれでさよならみたいな事言ってるの?」


そう言いながら、私の目からはどんな意味がこもっているかも分からない涙が零れ落ちていく。


喜ぶべき事なのに、どうして。


「俺とキスしちゃいけなかったんだよ、桃花。俺、今まで何回もお前とのキスを断ってきたよな、?……あれは、したくなかった訳じゃなくて、出来なかったんだ」
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