君を愛してはいけない。
今目を覚ましたばかりのはずなのに彼は弱った様子も見せず、酸素マスクを付ける事もせず、ただ久しぶりに見る青い目の焦点を私に合わせて話し続ける。


私には、彼が何を言いたいのか全く分からない。



「俺がお前とキス出来なかったのは、俺が、…天使で、キスしたら、………死ぬから」


(…え?)


その冗談は、今まで耳にタコが出来る程沢山聞いてきた。


目を覚ました直後にもそんな冗談を言えるなんて、彼の脳は随分活発に動いている様だ。


「伯ー、またそんな事言ってるの?もう聞き飽きたけど、その冗談で私を安心させてくれてありがとう」


私はふふっと笑ってその冗談を交わしたけれど、


「桃花、信じて。本当なんだよ。俺は天使で、もうすぐ死ぬ」


彼の目は至って真剣で真面目で。


ベッドの手すりを掴んでゆっくりと起き上がった彼は、目眩がしたのか眉間にしわを寄せた、様な気がした。


けれどそれも一瞬で、真剣な表情を崩さないままの彼は私の方を見ながら自分の背中を指さした。


「もう本当に時間が無いから巻きで説明するけど…、桃花にずっと言ってきた通り、俺は天使で、天界から落ちた堕天使だ。堕天使は好きになった人とキスをしたら死ぬ…天界に戻る運命で、これには誰も逆らえない」
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