【女の事件】とし子の悲劇・2~ソドムの花嫁
第61話
8月1日のことであった。

アタシに去られたダンナは、専業主婦が家にいないから困っていたので、高知市南久万の公団住宅で暮らしているおいのけいぞうさん(28歳・市役所勤務)夫婦の家族に助けを求めた。

この時けいぞうさんは家族の住まいを変えることを考えていたので、家賃を節約するためにダンナの家で暮らすと言うたので、ダンナは安心した。

8月3日に、けいぞうさんと奥さま(24歳)と娘さん(2歳)がダンナの家に引っ越して来た。

引っ越し業者のトラックが家の前に到着したのち、けいぞうさんの家の家財道具が家の中に次々と入った。

夕方4時過ぎに引っ越し作業が終わったので、みんなで引っ越しそばを食べていた。

けいぞうさんの奥さまは、ニコニコとした表情でまさおさんに『仲良く暮らして行こうね…』と呼びかけた。

ダンナは、まさおさんの気持ちが和らいで心を開くことを望んでいたが、実際には容易なことではなかった。

高松に逃げたアタシは、高松市内のデリヘル店でデリヘル嬢として働いているが、収入が十分でないので、香川県庁前の通りのファミマで再びバイトを始めた。

8月8日のことであった。

ダンナは、まさおさんが大学を休学中でたくさん空いている時間を有効に活用するためにハローワークに行って、職場実習で就職する制度の申し込みをした。

まさおさんは、8月9日から高知市河ノ瀬町にあるリネン工場に職場実習に行くことが決まった。

ダンナは、職場実習制度なら100パーセント就職できると思って決めた。

しかし、実際はダンナが思って通りには行かなかった。

まさおさんは、最初の3日間はダンナやけいぞうさんの奥さまから『がんばってね。』と後押しを受けて職場に足を運んでいた。

しかし、8月15日にまさおさんはしんどくなったので、午後2時に早退した。

翌8月16日に無断で欠勤した。

この日、高知市内に仲間たちと遊びに出掛けていた。

その日の夕方、まさおさんはダンナから『職場放棄をしてどこへ行っていたのだ!?』と怒鳴られた。

8月17日の朝、けいぞうさんの奥さまはまさおさんに『しんどいけれど、がんばって実習を続ければ採用をもらえるよ…おとうさんはまさおさんにお給料を家に入れてほしいから厳しく言っただけよ…元気な顔をしてがんばって行こうね。』と優しく言うて送り出した。

しかし、まさおさんはハローワークに行って『担当の職員を出せ!!』と怒鳴りつけた後、職場実習の制度の担当者との面会を求めた。

応対した職員から『出張中だから会うことはできない!!せっかく実習を受けているのだから、がんばって行ったらどうかね!!』とあつかましい声で言われた。

怒り心頭になったまさおさんは、リネン工場へ行って暴れた末に、工場の設備に大規模な被害を与えた。

それだけではなく、会社の従業員さんに暴行を加えた上に、数人に大ケガを負わせた(うち3人は生命にかかわる状態におちいった)。

そして、事務所の帳簿に大穴を開けて行方不明になった。

その頃、ダンナは南国市内のセメント製造工場で働いていた。

事件が発生した時、ダンナは席を外していた。

ハローワークからダンナの職場に電話がかかってきて『まさおさんが実習先で暴れた…工場の施設に大規模な被害を与えた上に、従業員さん数人に大ケガを負わせ…今日の午後、2人の従業員さんが死亡した…もうひとりの従業員さんも心肺停止状態になった…どうするのですか!?』と言うクレームの電話が来た。

対応をしていた事務の女性は『ただいま席を外しているのであとにしてください!!』と言うてガチャーンと切った。

ダンナの無関心の度合いがますます高まっていたので、まさおさんが実習先の事業所に大規模な被害を与えたことなんか知らないとイコジになった。

まさおさんも、ふじおさんに続いて家出をして行方不明になった。

まさおさんは、事件発生から1時間後以降、音信不通になった。

8月18日に、武方さんの奥さまがダンナのもとへ会いに来た。

ダンナは、武方さんの奥さまに対してコブシをふりあげて『どうして再婚をすすめた!?』と怒鳴りつけてイカクしたあと『あのヤクビョウ女を始末しろ!!場合によっては殺せ!!』と口走った。

奥さまからの話を聞いた武方さんは、アタシがバイトをしているファミマに来て『また離婚するのか…』とアタシにあつかましい声で言うたので、アタシは『そんなことは知らないわよ!!』と怒鳴りかえした。

アタシは、ゴミ箱の整理をしながら武方さんにこう言うた。

「武方さん!!アタシは女ひとりで生きて行くことを決意したのよ!!今ごろになってダンナとやり直せなんて、ふざけているわよ!!アタシは今バイト中よ!!用がないのだったら帰えんなさいよ!!」
「とし子さん、妻が心配しているのだよ…すみおさんの元に行って、もう一度話し合いをしたらどうかなぁ…すみおさん、とし子さんが出ていってから仕事がうまく行かずに苦しんでいるのだよ。」
「断固拒否するわよ!!夫婦関係は今日をもって破綻したわよ!!明日からはアカノタニンなるのよ!!そんなアカノタニンにどうしろと言うのかしら!!」
「アカノタニンって…すみおさんのことをアカノタニンと言うのかね?」
「ええ、その通りよ!!」
「とし子さん、天国にいるお父さんが泣いているよ。」
「はぐいたらしいわねダンソンジョヒ魔!!なんで父のことを出してくるのよ!!天国じゃなくて地獄へ墜ちたのよ!!やくざから金品を受け取るなど悪いことばかりしていたからトカレフの銃弾(たま)に当たってなくなった…キレイゴトばかりを言わないでよ!!」
「とし子さん、お父さんはとし子さんを守るためにとし子さんの身代わりになったのだよ…」
「あんたね!!アタシがああ言ったら父がどうのこうのと言って、アタシがこう言えば父がどうのこうのと…頭に来るのだけど!!あんたはアタシとダンナが離婚をしたら困る理由があると言いたいのかしら!!」
「困る理由はあるのだよぅ~」
「あんたね!!開き直った声で言わないでよ!!困る理由を具体的に言いなさいよ!!」
「具体的にって…」
「あんたもしかして、ダンナの家におカネを貸したのかしら…それとも、春野の高級住宅地に家を建てるときに資金が不足していたから一部負担したのかしら…それとも、ダンナの家の親類縁者がめいわくをかけたから後始末のお世話をしたのか…どっちなのよ!?」
「違うよ…とし子さんのお父さんの願いを叶えたいから…」
「父のことを出さないでと言うているのに、何で出してくるのよ!?あんたね、アタシは思い切りキレているのよ!!アタシのバイトの手を止めたのだからもう許さないわよ!!あんたね、店に居座り続けるのであれば、知人の組長を呼ぶわよ!!」

アタシは、武方さんにゴミ箱の中にあったグリコドロリッチの容器を思い切り投げつけた後、ゴミ箱の整理を再開した。

冗談じゃないわよ…

アタシは…

武方さんのあやつり人形なんかじゃないわよ…

アタシに干渉しないでよ…

アタシの怒りは、ますます高まっていた。
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