【女の事件】とし子の悲劇・2~ソドムの花嫁
第63話
8月22日のことであった。

ダンナは、無断欠勤したあげくに、自分が座っていたデスクの整理を強行した。

従業員さんたちは、ものすごく心配な表情でダンナを見つめていた。

ダンナは、にらんだ目付きで従業員さんたち…特にダンナよりも年齢が若い従業員さんたちをにらみつけてイカクした。

この時、ダンナの気持ちは『いつでも受けて立つぞ!!こっちは首をキレイに洗っているから切れるものなら切ってみろ!!』と言う気持ちになっていた。

デスクの整理を終えたダンナは、急にニコニコした表情になって、ダンナよりも若い従業員さんたちに『頼むよ…未来のホープくん…』と言うて肩をポンポンと叩いた。

ダンナは、湯わかし室にいる女性従業員さんにニヤニヤした表情で『かわいいね…』と言うてセクハラをした。

この時であった。

社長さんがビックリしてダンナを呼び止めたが、ダンナは社長さんに『経営努力をするなんて口から出任せだ!!』と言うて社長さんを思い切り突き飛ばした。

そして、社長さんの背広の内ポケットからさいふを取り出して、さいふの中から現金200万円とオリコカード(クレジットカード)を抜き取ったあと『思い知ったか…オンボロ経営者!!』と言うて社長さんの背中をけとばして、会社から出て行った。

ダンナは、会社から300メートル先にある酒の量販店へ行って、ニッカウヰスキーの大びん3本を買って、オリコカードで代金の決済をした後に外に出た。

酒の量販店を出たダンナは、物部川の河川敷の公園に行って、ニッカウヰスキーの大びんを空けて、ストレートでラッパのみをしてハイになった。

ダンナがどのような状況におちいっていたのか定かではなかったけど、大びん空けて、一気にガブのみしてボトルを空けた…

ダンナは、善悪を判断する能力が大きく落ちたので、極めて危険な状態であった。

この時、公園に来ていたお母さま方が危険を察知して子供たちを急いで保護した後、その場から離れた。

ダンナが危険な状態におちいっていた様子を武方さんの知り合いの人が目撃したので、スマホの動画で撮影した後、武方さんに急いで写メを送った。

高知県で暮らしている知人から送られて来た写メを受け取った武方さんは、ダンナの様子をみてビックリした。

武方さんは、アタシがバイトをしているファミマに行って、ダンナが極めて危険な状態におちいっていることを知らせに行った。

しかし、アタシは『クソバカのダンナを助ける余力なんかないわよ!!』と言うて、怒っていた。

アタシは、陳列ケースに新しく来たお弁当を並べながら武方さんに言うた。

「アタシはクソバカのダンナを助ける余力なんかないのよ!!もう完全に手遅れになったのよ!!それなのにどうやってダンナを助けろと言うのよ!?アタシにできることとできないことがあるのを分かって物を言うているのかしら!!あんたね!!ヘラミ(よそみ)しながら物を言わないでよ!!アタシはバイト中だから、帰んなさいよ!!」
「とし子さん、こっちは困っているのだよ…すみおさんが会社内でひどいもめごとを起こして、勝手に飛び出して行ったのだよ…女性従業員さんにセクハラしたり、社長さんをけとばしたりしたのだよ…」
「それがどうかしたのかしら!!今のダンナは、善悪の判断ができなくなったのよ!!早いうちに野市のダンナの親族に電話してよ!!」
「できたらそのようにしたいのだよぉ…」
「ゴタゴタ言わずに親族に電話をしなさいよ!!」
「分かっているよぉ…」
「分かっているのならば早く電話してよ!!」
「だけどね…野市の親族の家はすみおさんのことをカンドーしているのだよ…電話をしても『すみおのことは、私たちの記憶にはないから…』でガチャーンと言うのだよ…」
「それじゃあ、ケーサツに保護しなさいよ!!」
「ケーサツ…」
「文句あるのかしら!?」
「文句はないよ…」
「それだったら、手遅れになる前にケーサツに知らせなさいよ!!手遅れになる前に手をうちなさいよ!!」
「分かっているよぉ…」
「分かっているのだったら実行しなさいよ!!」
「とし子さん、その前にひとつだけお願いがあるのだよぅ…」
「はぐいたらしい(あつかましい)わね!!その前にひとつだけお願いがあると言うのはどういうわけなのかしら!?今は非常事態におちいっているのよ!!その前にお願いがあると言うのは何なのよ一体!!」
「とし子さん…お願いと言うのは、亡くなったお父さんの夢を反古にすることになるから…」
「なるから、どーせいと言うのよ!?」
「とし子さん…すみおさんと離婚をすると言うのであれば、お父さまの墓前にあやまらなければならないのだよ…お父さんの願いを叶えることができませんでした…ごめんなさいって…」
「あんたね!!アタシはのんきにかまえているひまは1秒もないのよ!!そんな状態におちいっているのに、父の墓前にあやまりに行ってる間に、四国山地の反対側でダンナがいつ暴走を起こすかも知れない…事件が起こってからでは遅いのよ!!」
「とし子さん、お願いですから分かってください。」
「だから、何をどのように分かれと言いたいのかしら!?」
「とし子さん、亡くなったお父さんは本当にとし子さんの花嫁姿を見ることだけしか楽しみがなかったのだよ…家族のために何もかもをがまんしてきたお父さんの気持ちを考えたことあるのかな?」
「(キッパリと)あるわけないわよそんなの…」
「とし子さん!!」
「あのね!!アタシは身の危険が差し迫っているのよ!!」
「分かっているよぉ~」
「だったら、煮るなり焼くなり喰うなりしてダンナを始末してよ!!」
「分かっているよぉ…」
「だったら店に居座らないで!!」
「居座る気はないよ…」
「居座らないでと言ってるでしょ!!」
「分かってるよぉ…」
「だったら出なさいよ!!ここは職場よ!!人が勤務している職場に居座るなんてサイテーよ!!あんたは道端で寝そべっている牛なの!?」
「とし子さん、このままでは出れないのだよ…」
「ますますはぐいたらしいわね!!居座るなと言ったら居座るな!!」
「このままでは出れないのだよ…」
「ますますはぐいたらしいわねダンソンジョヒ魔!!それじゃあ、どうしたら店を出ると言うのかしら!?」
「だから、お父さんのお墓参りをしてほしいのです…お父さんのお墓にお線香をたむけてほしいのです。」
「拒否するわよ!!」
「拒否するだと!?」
「ええ、その通りよ!!」
「とし子さん…今ごろ天国にいるお父さんが泣いているよ…どうしてお墓参りに来てくれないのか…お線香1本をたむけるだけでもいいからお墓参りに行きなさい!!」
「あんたこそ、人の職場に土足でやって来て居座らないでよ!!」
「とし子さんがお父さんのお墓参りをすると言うたら帰る!!」
「キーッ!!頭に来たわよ!!今からケーサツを呼ぶから動かないで!!」
「ケーサツ来ても動かない…とし子さんがお父さんのお墓参りをすると言うまで…」
「ちょうどよかったわ…今、アタシの知り合いの組長が来たわよね、今来たみたいね…組長に言いつけてくるから逃げないで!!」

アタシは、駐車場に停まっているシルバーのキャデラックに乗ってきた知人の組長に武方さんが居座っていることを言いつけた後、奥の部屋に逃げて行った。

数人の子分に凄まれた武方さんは、店内でドカバキの大ゲンカを起こした。

アタシは、冷めた目で武方さんをにらみつけていた。

情けないわね…

武方さんはヤクザに焚きつけていったから…

そのうち、チャカでドタマぶち抜かれるわね…
< 63 / 65 >

この作品をシェア

pagetop