先輩、私だけに赤く染まって
「何、急に」
戸惑っている。いや、若干引いている。
「私頑張るからね。村田くんの分まで幸せになる」
「いや俺だって幸せになりたいんだけど…」
小さく発せられた反論は、気合十分の私の耳には入っていなかった。
世の中には良い男もいるもんだ。
中学の自分に言ってやりたい。
こんなに世界は広いのに、どうしてあんなに縮こまっていたんだろう。
「やべ、六時過ぎてんじゃん。図書室閉めないと」
話に夢中になり過ぎて、時計なんて見ていなかった。
日は長くなってきて、外はまだ明るい。
慌てて職員室に鍵を返す。
時間厳守でうるさいんだよな、あの先生。