先輩、私だけに赤く染まって
恐る恐る先輩の顔を見ると、確かに目は合った。
だけど見ていたのは私でなかったような気がする。
私の先に誰かを見据えていた。
「そうだね…俺はもう誰とも付き合う気はないんだ」
落ち着いた声色で告げられたそれは、最も残酷な答えだった。
好きな人がいるでもいないでもない。
付き合う気がない、って?
私は笑みを浮かべることも忘れて、何かを思い出しているのか、僅かに苦い顔をした先輩を見つめていた。
どうしてそんなことを言うのか、聞けばよかったかもしれないけど私には出来なかった。
あんなに甘かったクリームが、重く張り付いて口を開くのを拒んだ。