先輩、私だけに赤く染まって
「杉野さん?」
突然黙った私を不思議に思ったのか、顔を覗き込む。
「すみません、あまりに美味しくて」
そのときの私は、なんとも情けない不自然な笑顔を浮かべていたことだろう。
だけどそうやって誤魔化すのが精一杯で。
私はそのあと一度も先輩の顔を直視することが出来なかった。
だから先輩もどんな顔をしていたか知らない。
何も変わらず笑顔だったのか、
私の気持ちに気付いて切ない顔をしていたのか。
家まで送るという先輩の好意を断って、駅で別れた。
これ以上先輩の隣にいて、泣かない自信がなかったから。
足早に駅から去り、大分離れたところで足を緩める。