先輩、私だけに赤く染まって
浴衣はお母さんが着付けてくれることになっていた。
二年ぶりに着た浴衣はそれだけで気分が上がる。
ただ、帯の苦しさは慣れないけど。
ヘアアレンジもしてもらって、最後にハナミズキの髪飾りをつけて。
「ほんとに綺麗になって…」
鏡を当ててくれているお母さんが泣き真似をしてみせる。
「やめてよ」
「穂乃果、自信持ちなさい。お母さんの若いときよりずっと可愛いわよ」
大袈裟なんだから。本当に親バカだ。
だけどその言葉は少しだけ緊張を解してくれた。
先輩からは一晩経っても音沙汰がなくて、来る気なのか来ない気なのかさっぱり分からない。
「じゃあ行ってくるね」
笑顔で送り出してくれたお母さんに手を振って、私は家を出た。