先輩、私だけに赤く染まって
だけど今の私は気の利いたこと一つも言えない。
「もう家に着いた?」
先輩の声が耳に入ってきて、私は一瞬で心が温かくなるのを感じた。
どうしてこんなにも違うのか。
そんなこと考える必要もない。先輩だからなんだ。早瀬先輩だから私はこんなにも安心できる。
「…何かあった?」
それでも何も言葉にしない私に、少し心配そうな声で聞いてくる。
もう私の心は先輩で一杯だ。
和樹のことなんて片隅に追いやっていた。
「先輩の声が聞けたので、もう大丈夫です」
「…そう。あ、ジュースちゃんと飲むんだよ」
「分かりましたよ」
…しっかり聞こえてたんだ。
じゃあ、また学校で。と言って電話は切られた。