キミのこと痛いほどよく分かる
「その必要はありません。」

鋭い声に振り返ると、先ほど逃げ出したはずの彼が立っていた。

「ははっ...。
わざわざそちらからお越し頂かなくても、こちらからお迎えにあがりましたよ、
王子様。」

男は、よろよろと彼に近づく。

「院長、俺はあなたの思う通りには動きません。」

「わざわざ私にそれを伝えに?」

「はい、そうです。
ここを辞めます。」

「ほう...。
君は私の恩というものを忘れたのですか。」

「申し訳ありません。
ここに勤めることを快諾いただき、置き続けてくれた院長には、感謝しています。」

「それなら、その恩義に応えるのが、君の務めでは?」

「はい。
しかし、それが正しい心で成し得ることができないというのならば、その恩に背き、お別れするしかありません。

今までお世話になりました。」

そう言い残し、呆然とする男に背を向け、彼は去る。

「あの...暁先生...。」

近くにいた看護師が呼び止める。

「ここを、辞めてしまわれるんですか?」

「はい。」

「そうですか...。
どうか、お元気で。」

彼は微笑んだ。

そして、また別れの路へと歩きだす。

長い、

永い別れの路へと。
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