からふる。~第24話~
頭を打ち付けた八代先輩はその後しばらく目覚めなかった。


目覚めた時には既に浅川さんは帰ってしまっていた。



「と、朱鷺田さん...」


「良かった...。いつ目覚めるのか心配しましたよ」


「あの、日奈子さんは...?」


「また来るって言ってました。今日は驚かせてごめんなさいって」


「驚いたよ。まさかあのひーにゃんから告白されるなんて...夢みたいだ。ボクみたいなオタクとアイドルなんて...そんな...有り得ない」


「有り得たんですよ。それは八代先輩自身が証明したんです。浅川さんから聞きました。八代先輩は結成当時から応援してくれて毎回きっちり3枚手紙を書いてくれていたと。そこには日常の幸せが溢れていて、アイドルの世界から自分を連れ出してくれたって。もちろんミジンコへの愛も書いてあって面白かったそうです」


「そ、そんな...」



八代先輩は謙遜しているようだけど、それは事実。


八代先輩が無意識のうちに浅川さんの世界を豊かにしていたんだ。


夢を売るアイドルに一般人の何気ない日常がいとおしく感じられたのかもしれない。



「代わりが見つからなくても辞めるそうです。茶樹くんが背中を押してくれるって信じたい。茶樹くんが私を受け止めてくれるって信じてる...。そう言っていました」



八代先輩は突然立ち上がり、お尻をパンパンと叩いた。


いや、地面に座っていたわけじゃないのでお尻には何もついていないと思うのですが...。



「ボク、行ってくる!」


「でももう10時です」


「あっ...」



八代先輩、本当に浅川さんのことが好きなんだな。


じゃなかったら、推しに一般人になって恋愛して幸せになってほしいなんて言えないよ。



「明日にでも行ってくる」


「その前にメッセージ送っておいたほうがいいですよ」


「あっ...そっか。そうだよね。ボク、連絡先知ってるし」


「きっと喜ばれますよ」


「そう、だといいな」



八代先輩はミジンコの話をする時とは違ったとびきりの笑顔を私に見せてくれた。






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