私は月夜に恋をする
怖い。痛い。苦しい。
全身が酷く痛む。
私に向かって腕を伸ばした男の手を掴んだのは異変を感じとった秋だった。

「命に触らないで下さい」
「なんだお前、ガキが一丁前に格好つけやがって。俺はこいつの父親だぞ」
「あ、あき、私は、大丈夫だから」

これ以上は秋まで殴られてしまう。
震える声を何とか絞り出すが
少年はその手を離さない。

「命、一緒に戻ろう。僕の家に。
話はそれからだよ」

いつになく優しいその声に、涙が溢れそうになったが、それでも父親が恐ろしくて仕方がなかった。
秋が殴られる前に、と男の手を掴む秋の腕に手を添えると
彼はすんなりとその腕を離した。
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