私は月夜に恋をする
「離して」
「嫌だ」

大きな心臓の音が聞こえてしまいそうで焦ったが、何より彼の心臓の音の方が大きくてびっくりした。
けれどそれも最初のうちだけで、
やがてその心臓の音に聞き入ってしまい、
安心して瞼が重くなってくる。
嫌だ。明日が来るのが怖い。

「秋は、なんで何も聞いてこないの?」

あんなことがあったのに、何も聞かないで優しくしてくれる。
秋の腕の中は怖くなんかなくて、
心地よくて、今すぐにでも眠ってしまいそうで。でも眠るのが怖くて。
微睡む意識の中、懸命に自分の眠気と戦いながら問いかける。
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