清廉で愛おしい泡沫の夏
 「…」
 彼女が、美夏ちゃんがどこに行ったのかを廉に教えてから、2時間。
 廉は、二階から、勉強を教える美夏ちゃんをただただじっと見ていた。
 昼とは明らかに違う種類の負のオーラが、全身から溢れている。
 美夏ちゃんの周りに男が増えるたびにイライラゲージを、100上げているようだ。
  
 彼女は相変わらず楽しそうだ。
 イライラしていく廉を見て、楽しんでいる。
 「ずいぶんと眉間にしわが寄っているわね。」
 は、話しかけた…
 でも廉は気にしていないようだ。
 美夏ちゃんを見るので必死だな、ありゃ。

 「自分の好きな人が、笑顔でいるのよ?普通はうれしいものじゃない?」
  
 い、今のでゲージが1000あがったよ…
 あんまり刺激しないでくれよ…
 「ねぇ、廉?」
 と、同意を求めるように訊く彼女に、廉がやっと視線を向ける。
 「…」
 無言で見つめ合う2人。
 表情は、まるで真逆だ。
 
 「あなたは、あの子の幸せのために、どれだけ自分を抑えられる?」
 
 彼女がそう言った瞬間に、なぜか、寒気がした。

 な、なんだ、、いま、一瞬、、、空気が、変わった…?
 と、思ったと同時に、廉は、すぐに下に向かっていた。

 彼女に視線を移すと、、

 そこには言葉にならないほどに、美しい女が立っていた。
 ひどく切なく、悲しそうに歪められたその顔は、この世のものとは思えないほどに、美しかった。
 今にも泣きだしそうで、抱きしめてやらなければ消えてしまいそうな彼女を前にしても、あまりの衝撃に、足は、まったく、いうことを聞かない。
 彼女は、なにを、想って、そんなにつらそうにしてるんだ。
 彼女は、なにを、感じて、そんな風に顔を歪めるんだ。
 彼女は、一体、なにを抱えているんだ…?


 「ちょ、ちょっと。乙女の体に急に触るなんて失礼よ!」

 突然の声に、驚き、そちらを振り返ると、笑顔で男たちに手を振る美夏ちゃんと、
 さっきまでとは一変して、昼と同じ種類の負のオーラを放つ、廉。
 
 あぁ、廉、立ち直れるかな…

 

 足音がして、はっ、と気が付き彼女に視線を戻すと、
 下を見ながら、
 …笑っていた。
 「あら、廉、立ち直れるかしら。」
 と、いたずらっ子のような笑顔を、こちらに向けて。
 
 














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