清廉で愛おしい泡沫の夏
教えて
 「ここ、符号が違う…」
 間違いの箇所を指さして、そう言った。

 
 先ほど、挨拶が遅れていた場所に近づいてみると、遅れた理由は、勉強に集中していたからのようだ。
 廉が通り過ぎると、すぐに座って、4,5人で論争を繰り広げていた。
 どうやら、数学の問題の答えが、全員一致しないらしい。
 少し近づいて、問題を覗いて見ると、、全員なにかしらミスをしている。
 「ここ、符号が違う…」
 一番近くの男の子の回答のミスを指摘する。

 が、、なぜか全員固まってしまって、反応しない。
 「…聞いてる?」
 「…はっ!え⁉なんだって?」
 「だから、ここ、+じゃなくてーだよ。」
 目を覚ました男の子たちが、やっと動き出す。
 「君は、ここ、二乗するの忘れてる。」
 「あ、ほんとだ、、」
 私の指摘で、みんなが解き直し始める。
 「できた!」
 「お、正解!」
 と指で丸を作って見せる。
 「俺もできた!」
 「おれも!」
 すぐにみんなが正解にたどり着いた。

 「…みんな、なんで、勉強してるの?」
 みんな桜爛の制服…着崩しが激しいけど、、一応制服、、を着ているので、明らかに高校生だ。
 正直、不良校に勉強する人はいないと思ってた。…失礼だけど。
 「俺たち、再試組なんだよね。」
 5人のうちの1人がそう言った。
 「…再試?」
 「そう、この前テストがあって、それで8教科中3教科以上赤点だと一番点数の悪い3教科が再試になるんだ。」
 「それで、1個でも赤点だと進級できないんだよね、、」
 「…その3教科、全部赤点じゃなければ合格ってこと?」
 「そ、そういうこと。」
 「…みんな、3教科以上赤点、なの?」
 「「「「「…はい、、」」」」」
 「…」
 …前の学校だと、一応赤点制度はあったけど、赤点をとった人を見たことがなかった。
 もちろん私もとったことがない。
 「えっと、、私で良ければ勉強、教えようか…?」
 「マジすか⁉」
 「「「「「お願いします!!!」」」」」

 「再試は、いつ?」
 「今週の金曜日!」
 今日は火曜日、、あと4日しかない!
 「えっと、じゃあ、みんなの名前と、再試の3教科教えて?」



 「陸、また二乗し忘れてるよ。」
 「伊能忠敬は日本地図を描いた人よ、葵。」
 「亮、はらから、っていうのはきょうだいのことよ。同じ腹から、生まれた兄弟よ、わかりやすいでしょ?」
 再試組は、なぜかどんどん増えていた。
 最初の5人に教えていると、声を聞いていたのか、「俺たちも教えてほしい」と、集まりはじめ、いつの間にか、学年関係なく、30人ほどの勉強を見ていた。
 勉強を教えるのは、自分の勉強にもなるので、とても楽しい。
 でも、さすがに30人を一気に見ることはないので、結構なハードワークだ。
 「美夏ちゃん、ここ、どう解くのか教えて!」
 「美夏さん、ここわかんないです、、」
 頼ってくれるのは、うれしいが、なぜだか、3年生の人でも、だれも、私を呼び捨てにしない。
 そういえば、琉も総も私を呼び捨てにしないな。。。
 私は最初から全員呼び捨てにしていたけど…
 もしかして、絶対に人を呼び捨てにしない、とかルールがあるのかしら。
 廉への挨拶といい、結構礼儀にうるさいのかも。
 …ま、私はここの人じゃないし、いいか。 



 再試組に勉強を教え始めてから、数時間経った。

 「おい、帰るぞ。」
 「えっ、、わ、」
 そう言って急に私の腕を掴み、引っ張ったのは、廉だ。
 「ちょ、ちょっと。乙女の体に急に触るなんて失礼よ!」
 そう言うと、無理やり廉の腕を引き離した。
 もうちょっと教えていたかったけど。。
 まあしょうがないか…
 と考え、振り返り、
 「じゃあね、みんな、勉強頑張ってねー!」
 「「お、おう!」」
 と、みんなに手を振った。


























 
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