夜の蝶
#卒業後#
孤独で辛い毎日だったけれど、お姉ちゃんの後押しのお陰でなんとか高校生活を耐え抜くことができた。
そして、進路を決めないまま高校を卒業し、飲食店でアルバイトをしながら日々を過ごしていた。
その頃、ふと立ち寄った喫茶店で知り合った男性と意気投合しお付き合いをすることになる。
見るからにチャラチャラしていてタイプではない。
でも、今の私には誰でも良かった。
とにかく心の拠り所がほしかっただけ。
卒業した途端、両親は私を邪魔扱いし暴力を受ける事も度々あった。
何度痣を隠してきたことか…
こんな家早く出ていきたい…
だけれど、一人暮らしができるほどの余裕はまだない。
そんな時だった、
「つーか、俺ん家来ちゃえよ」
夢想だにしなかった彼の言葉に戸惑いを隠せない。
「えっ…でも…」
「そんな家にいてもしょうがねーだろ」
「うん…」
そして私は、実家に置手紙だけを残し彼の家に転がり込んだ。
「ごめんね…迷惑かけて」
「大丈夫だよ!なんも心配すんな」
養子だという事。両親の不貞行為。私の家の事情を全て受け入れてくれた。
初めてできた彼氏。これが愛なのだと感じさせてくれた彼。
そんな彼の優しさに甘えてしまった。
哀れな生活から救ってくれた彼のためにと、バイトが終わったら寄り道せずに帰宅し、頻繁に連絡して行動を把握したりと必要以上に尽くした。
そうする事が正しいと思っていたし、それが愛なのだと勘違いしていたのだ。
それが仇となって「重い」と言われることが増え、別れ話も何度されたことか。
だけれど、私を受け入れてくれた彼を手放したくなくて、執拗にすがりついてしまっていた。
「あのさー、飲み行ってるときは連絡しないでくんない?」
「ごめんね…心配だったから」
「つーか、いつまで俺ん家に居座るつもり?」
「ごめん…」
「ごめん、ごめんてさー!いっつもそれだよな」
私は彼に謝ることしかできない…
馬鹿みたい…こんな自分が…
いつしか彼は家に女を連れ込むようになり、両親と同じように私はゴミ扱いをされるようになった。
「お前さ、いい加減出て行けよ。悪い環境で育ったお前なんか好きでもねーし、ただの遊び相手なんだよ。お前の親も遊び人なんだろ?なら俺の気持ち分かるよな?」
彼のその理不尽な言葉が胸に突き刺さり、彼を苦しめているのだと気付いた私はやっと別れを決意する事ができた。
私の人生なんてそんなもんなんだよね…
出口の見えない孤独に苛まれた。
両親をずっと見てきたからその彼に対して全く軽蔑の色はない。
辛いという気持ちも裏切られたという気持ちも全くない。
それどころか、こんな私を一時でも受け入れてくれたことに感謝をしている。
彼の家を出たところで私の居場所なんてどこにもない…
一生こんな風に生きていくのかと思うと絶望感でしかなかった。
だけれど、死ぬ勇気なんて私にはない。
何が何でも生きてやる…
頼みの綱はもうお姉ちゃんしかいなかった。
重い足取りでお姉ちゃんの家に向かい、別れたことを伝えると、お姉ちゃんは私に何一つ聞いてこなかった。
いつだってお姉ちゃんは必要以上に踏み込んでこないし、瞬時で私の感情を見抜いてくれる。
彼氏の結弦さんも、真剣なまなざしでただ黙って話を聞いてくれた。
「お姉ちゃんもいつかは私のこと邪魔になるのかな…?私お姉ちゃんにまで嫌われたら…」
絶望感に包まれ無意識にボソッと呟いていた。
その言葉を聞いたお姉ちゃんは、狂気のような力で私を抱き締めた。
「お、お姉ちゃん…痛いよ…」
痛いのは抱き締められてるからじゃない、心が痛いの…
悲しみが心の痛みのように走り抜けるのを感じる。
私はこれっぽっちも涙が出ないくらい今の現実を受け止めていた。
涙は枯れ、血の気のない唇だけをわなわな震わす。
お姉ちゃんの鼻をすする音だけが響く。
「…っよし!!じゃ、今日からゆうの部屋はここね」
「っえ?…」
「だ・か・ら、今日からここがゆうのお部屋。OK?」
「…一緒に住んでもいいの?」
お姉ちゃんは優しく微笑み私の頭を撫でる。
「いいもなにもお姉ちゃんがそうしたいんだけど?」
私は結弦さんに目線を移す。
「でも…結弦さんに申し訳ないから」
「ゆうちゃん!遠慮しないでよ。もうゆうちゃんは俺の妹同然なんだから」
その一言に私の瞳からは随喜の涙が流れた。
「一人暮らしが出来るまでのお金が貯まったらすぐ出ていくから。それまではお世話になります」
そう言って唇を噛みしめる。
「ゆうちゃん!そんなことは気にしなくていいんだよ。ゆうちゃんのタイミングでゆっくりでいいから」
更に涙が溢れた。
「ほら、泣いてる暇なんてないよ!買い物行くよ」
「…うん」
そして、それから月日は流れ、19歳になった私はある人と出会うことになる。
その人との出会いが人生のレールから外れる滑り出しとなった。
飲食店のバイトが終わって帰宅途中、1人の男性に声を掛けられる。
スーツをビシッと着こなしたイケメン。
「ねー、ねー、ちょっといいかな?」
えっ!これって明らかにナンパだよね…?
私は無視をして再び歩き出す。
「ちょっと、ちょっと!話だけでも聞いてくれないかな?」
私はもう一度足を止め振り返る。
それは…「夜のお仕事をやりませんか」というスカウトだった。
話だけ聞いてみると、週5出勤は確定だが、ワンルームに無料で住めて美容室やネイルまでもが無料で出来るとのことで、条件がとても良かった。
とりあえず連絡先を交換してその場を後にし、決めるのに時間は掛からなかった。
帰宅して落ち着いて考えた結果“やってみよう”と決心をする。
その日のうちにスカウトの人に連絡をして早速話を進めた。
もちろんのことお姉ちゃん達にはキャバで働こうとしている事は秘密。
お姉ちゃんにだけは隠し事なんてしたくなかったけれど、到底言えるはずなんてない。
真面目で優しいお姉ちゃんはきっと悲しむから…
お姉ちゃんの悲しんだ顔なんて見たくない。
そして、私は誰に相談することなく、水商売に足を踏み出してしまった。
孤独で辛い毎日だったけれど、お姉ちゃんの後押しのお陰でなんとか高校生活を耐え抜くことができた。
そして、進路を決めないまま高校を卒業し、飲食店でアルバイトをしながら日々を過ごしていた。
その頃、ふと立ち寄った喫茶店で知り合った男性と意気投合しお付き合いをすることになる。
見るからにチャラチャラしていてタイプではない。
でも、今の私には誰でも良かった。
とにかく心の拠り所がほしかっただけ。
卒業した途端、両親は私を邪魔扱いし暴力を受ける事も度々あった。
何度痣を隠してきたことか…
こんな家早く出ていきたい…
だけれど、一人暮らしができるほどの余裕はまだない。
そんな時だった、
「つーか、俺ん家来ちゃえよ」
夢想だにしなかった彼の言葉に戸惑いを隠せない。
「えっ…でも…」
「そんな家にいてもしょうがねーだろ」
「うん…」
そして私は、実家に置手紙だけを残し彼の家に転がり込んだ。
「ごめんね…迷惑かけて」
「大丈夫だよ!なんも心配すんな」
養子だという事。両親の不貞行為。私の家の事情を全て受け入れてくれた。
初めてできた彼氏。これが愛なのだと感じさせてくれた彼。
そんな彼の優しさに甘えてしまった。
哀れな生活から救ってくれた彼のためにと、バイトが終わったら寄り道せずに帰宅し、頻繁に連絡して行動を把握したりと必要以上に尽くした。
そうする事が正しいと思っていたし、それが愛なのだと勘違いしていたのだ。
それが仇となって「重い」と言われることが増え、別れ話も何度されたことか。
だけれど、私を受け入れてくれた彼を手放したくなくて、執拗にすがりついてしまっていた。
「あのさー、飲み行ってるときは連絡しないでくんない?」
「ごめんね…心配だったから」
「つーか、いつまで俺ん家に居座るつもり?」
「ごめん…」
「ごめん、ごめんてさー!いっつもそれだよな」
私は彼に謝ることしかできない…
馬鹿みたい…こんな自分が…
いつしか彼は家に女を連れ込むようになり、両親と同じように私はゴミ扱いをされるようになった。
「お前さ、いい加減出て行けよ。悪い環境で育ったお前なんか好きでもねーし、ただの遊び相手なんだよ。お前の親も遊び人なんだろ?なら俺の気持ち分かるよな?」
彼のその理不尽な言葉が胸に突き刺さり、彼を苦しめているのだと気付いた私はやっと別れを決意する事ができた。
私の人生なんてそんなもんなんだよね…
出口の見えない孤独に苛まれた。
両親をずっと見てきたからその彼に対して全く軽蔑の色はない。
辛いという気持ちも裏切られたという気持ちも全くない。
それどころか、こんな私を一時でも受け入れてくれたことに感謝をしている。
彼の家を出たところで私の居場所なんてどこにもない…
一生こんな風に生きていくのかと思うと絶望感でしかなかった。
だけれど、死ぬ勇気なんて私にはない。
何が何でも生きてやる…
頼みの綱はもうお姉ちゃんしかいなかった。
重い足取りでお姉ちゃんの家に向かい、別れたことを伝えると、お姉ちゃんは私に何一つ聞いてこなかった。
いつだってお姉ちゃんは必要以上に踏み込んでこないし、瞬時で私の感情を見抜いてくれる。
彼氏の結弦さんも、真剣なまなざしでただ黙って話を聞いてくれた。
「お姉ちゃんもいつかは私のこと邪魔になるのかな…?私お姉ちゃんにまで嫌われたら…」
絶望感に包まれ無意識にボソッと呟いていた。
その言葉を聞いたお姉ちゃんは、狂気のような力で私を抱き締めた。
「お、お姉ちゃん…痛いよ…」
痛いのは抱き締められてるからじゃない、心が痛いの…
悲しみが心の痛みのように走り抜けるのを感じる。
私はこれっぽっちも涙が出ないくらい今の現実を受け止めていた。
涙は枯れ、血の気のない唇だけをわなわな震わす。
お姉ちゃんの鼻をすする音だけが響く。
「…っよし!!じゃ、今日からゆうの部屋はここね」
「っえ?…」
「だ・か・ら、今日からここがゆうのお部屋。OK?」
「…一緒に住んでもいいの?」
お姉ちゃんは優しく微笑み私の頭を撫でる。
「いいもなにもお姉ちゃんがそうしたいんだけど?」
私は結弦さんに目線を移す。
「でも…結弦さんに申し訳ないから」
「ゆうちゃん!遠慮しないでよ。もうゆうちゃんは俺の妹同然なんだから」
その一言に私の瞳からは随喜の涙が流れた。
「一人暮らしが出来るまでのお金が貯まったらすぐ出ていくから。それまではお世話になります」
そう言って唇を噛みしめる。
「ゆうちゃん!そんなことは気にしなくていいんだよ。ゆうちゃんのタイミングでゆっくりでいいから」
更に涙が溢れた。
「ほら、泣いてる暇なんてないよ!買い物行くよ」
「…うん」
そして、それから月日は流れ、19歳になった私はある人と出会うことになる。
その人との出会いが人生のレールから外れる滑り出しとなった。
飲食店のバイトが終わって帰宅途中、1人の男性に声を掛けられる。
スーツをビシッと着こなしたイケメン。
「ねー、ねー、ちょっといいかな?」
えっ!これって明らかにナンパだよね…?
私は無視をして再び歩き出す。
「ちょっと、ちょっと!話だけでも聞いてくれないかな?」
私はもう一度足を止め振り返る。
それは…「夜のお仕事をやりませんか」というスカウトだった。
話だけ聞いてみると、週5出勤は確定だが、ワンルームに無料で住めて美容室やネイルまでもが無料で出来るとのことで、条件がとても良かった。
とりあえず連絡先を交換してその場を後にし、決めるのに時間は掛からなかった。
帰宅して落ち着いて考えた結果“やってみよう”と決心をする。
その日のうちにスカウトの人に連絡をして早速話を進めた。
もちろんのことお姉ちゃん達にはキャバで働こうとしている事は秘密。
お姉ちゃんにだけは隠し事なんてしたくなかったけれど、到底言えるはずなんてない。
真面目で優しいお姉ちゃんはきっと悲しむから…
お姉ちゃんの悲しんだ顔なんて見たくない。
そして、私は誰に相談することなく、水商売に足を踏み出してしまった。