夜の蝶
#結婚#
そして豊とは順調に2年の交際を得て、私たちは市役所へと向かう。
「こちらで受理させていただきますね。この度は誠におめでとうございます」
“熊沢”から“岩崎”になりました。
仕事を隠し続けて豊に対してずっと裏切ってきて、そして結婚をした。
自分勝手で卑怯だけれど、この事は死ぬまで隠し通そうと思った。
プルプルプルッ…
「もしもし、お姉ちゃん?さっき婚姻届け出してきたよ」
「そうなのー?おめでとーう!!先越されたわね」
「お姉ちゃん達はまだしないの?」
「うーん…まだそのタイミングじゃないかな!近いうち結婚祝いしようね」
結弦さんの転勤でお姉ちゃん達は遠くに引っ越して以来なかなか会えていない。
環境が変わって夜は辞めなければならないのに、キャバを辞められない理由はお金だけの問題ではなかった。
社会に対しての自分の逃げ道だった。
夜の顔は偽り。
だけれど、家族みたいな温かさにどっぷりはまっている自分もいる。
もし豊にバレたら…などと考える事もないくらい、どこかで余裕な気持ちになっていた。
“昼職に就こう”と思ってやってはみるものの、やはり長くは続かない。
ここまできちゃうとそう簡単にはいかないものだ。
豊、ごめんね…
私みたいな人には、豊は贅沢過ぎましたね。
本当は普通に仕事をして、普通に生活をして、普通に結婚をするのが夢だった。
私の心はどんどん汚れていった。
豊と夫婦になって1ヶ月が過ぎようとしていた。
今日は常連客のアフターの日。
豊には宴会だとお決まりの嘘を付き、お客様との待ち合わせ場所に着いた私はベンチに腰掛け待機する。
ドタドタドタ…
背後から荒っぽい足音が聞こえてきて、私は振り向く。
その瞬間…!!!
うっ、うっ、くっ、苦しい…
鼻と口をタオルで塞がれ、一瞬気を失う。
気が付いた頃には時すでに遅し、私は公衆トイレの中にいた。
目の前にいたのは…アフターを約束していたお客様。
「ゆりちゃ…ん、ゆりちゃ…ん」
そう何度も私の源氏名を連呼し、私に身体を擦り付ける。
「い、いや…いや…、やめて…」
その時だった、
ドンッドンッドンッドンッ …
「ゆりっ?ゆりっ?大丈夫かっ?」
驚くお客様の隙を見て勢いよく鍵を開ける。
私は逃げる一心でその人の顔も見ずに胸の中に飛び込んだ。
お客様は一目散に去っていく。
「ゆり、ゆり!大丈夫か…?」
私の名前を呼んでいる…知ってる人なの…?
恐る恐る顔を上げる。
「え…あ、青木さん、どうして…」
「無事で良かった…とりあえず俺の車に行こう」
そう言って青木さんは私を支えながら車へと向かう。
一人で歩こうにも身体が震えて足がふらついてしまい、青木さんの腕に身体を預けながら歩くのがやっとだった。
静まり返った車中…
こんなみっともない姿を青木さんに見られるなんて…
気まずい空気に耐えられなくなって、私は気丈に振舞ってみた。
「あはは、変なところ見られちゃいましたね…アフターのお客様だったんですよ…」
「…」
えっ…
「あ、青木さん?」
「家まで送るから」
なんか…怒ってる?…
気まずさが勝って聞くに聞けない。
「…っありがとうございます」
しばらく沈黙が続いた。
ダメだ…そわそわする。気まずい…何か話題…
そうだっ!!
「ところで…どうして青木さんあそこに?」
「…接待の帰りにたまたまゆりを見掛けたんだよ。アフターだと思ったから声掛けなかったけど、怪しい男がゆりに近付いていくのが見えたから念のため気に掛けてたら…トイレに連れ込むのが見えてただ事ではないと思ってね」
「そ、そうだったんだ…偶然ですね。助けてくれてありがとうございました」
「余計なお世話かもしれないけど、深夜1人で出歩いてるときはもっと警戒しないと」
そう言って、優しく私の頭をポンポンする。
さっきの気まずい空気はなんだったのだろうか…
とりあえず今回は、青木さんに間一髪で助けられたから良かったけれど…
いくら常連さんだとしても自分の行動は浅はかだったと悔いの感情が芽生えた。
そして、青木さんの一言から突然真剣なムードに切り替わる。
「もう、いいんじゃないか?」
「っえ!」と同時に青木さんに顔を向ける。
「もうそんなに頑張らなくてもいいんじゃない?」
不思議な感覚…胸にぐっとくるものがあった。
なぜそんな優しい言葉を…
「あそこが私の居場所だから…」
「旦那がいてもゆりの居場所はあのお店なの?」
答えは一つのはずなのに、私はその質問に答えることができなかった。
「ごめんな、余計なお世話だよな。ただ…あんな目にまで遭って、それでも自分の居場所って…なんか違う気もするけど」
「私…私が私で輝けてる場所だから。たとえそれが偽りの世界だったとしてもこの世界から出たら私にはまた居場所がなくなるような気がして…」
私なんでこんな話を青木さんにしてるんだろう…
「なら、俺の世界に来るか?」
俺の世界?どうゆうこと…?
その言葉の意味が全く理解出来ず、私は青木さんを見つめる。
「明日の15時、いつものカフェに」
青木さんはそれ以上は何も言うことはなかった。
“俺の世界”その言葉が頭の中を混乱させた。
そして翌日、約束の15時に一足先に到着する。
そして豊とは順調に2年の交際を得て、私たちは市役所へと向かう。
「こちらで受理させていただきますね。この度は誠におめでとうございます」
“熊沢”から“岩崎”になりました。
仕事を隠し続けて豊に対してずっと裏切ってきて、そして結婚をした。
自分勝手で卑怯だけれど、この事は死ぬまで隠し通そうと思った。
プルプルプルッ…
「もしもし、お姉ちゃん?さっき婚姻届け出してきたよ」
「そうなのー?おめでとーう!!先越されたわね」
「お姉ちゃん達はまだしないの?」
「うーん…まだそのタイミングじゃないかな!近いうち結婚祝いしようね」
結弦さんの転勤でお姉ちゃん達は遠くに引っ越して以来なかなか会えていない。
環境が変わって夜は辞めなければならないのに、キャバを辞められない理由はお金だけの問題ではなかった。
社会に対しての自分の逃げ道だった。
夜の顔は偽り。
だけれど、家族みたいな温かさにどっぷりはまっている自分もいる。
もし豊にバレたら…などと考える事もないくらい、どこかで余裕な気持ちになっていた。
“昼職に就こう”と思ってやってはみるものの、やはり長くは続かない。
ここまできちゃうとそう簡単にはいかないものだ。
豊、ごめんね…
私みたいな人には、豊は贅沢過ぎましたね。
本当は普通に仕事をして、普通に生活をして、普通に結婚をするのが夢だった。
私の心はどんどん汚れていった。
豊と夫婦になって1ヶ月が過ぎようとしていた。
今日は常連客のアフターの日。
豊には宴会だとお決まりの嘘を付き、お客様との待ち合わせ場所に着いた私はベンチに腰掛け待機する。
ドタドタドタ…
背後から荒っぽい足音が聞こえてきて、私は振り向く。
その瞬間…!!!
うっ、うっ、くっ、苦しい…
鼻と口をタオルで塞がれ、一瞬気を失う。
気が付いた頃には時すでに遅し、私は公衆トイレの中にいた。
目の前にいたのは…アフターを約束していたお客様。
「ゆりちゃ…ん、ゆりちゃ…ん」
そう何度も私の源氏名を連呼し、私に身体を擦り付ける。
「い、いや…いや…、やめて…」
その時だった、
ドンッドンッドンッドンッ …
「ゆりっ?ゆりっ?大丈夫かっ?」
驚くお客様の隙を見て勢いよく鍵を開ける。
私は逃げる一心でその人の顔も見ずに胸の中に飛び込んだ。
お客様は一目散に去っていく。
「ゆり、ゆり!大丈夫か…?」
私の名前を呼んでいる…知ってる人なの…?
恐る恐る顔を上げる。
「え…あ、青木さん、どうして…」
「無事で良かった…とりあえず俺の車に行こう」
そう言って青木さんは私を支えながら車へと向かう。
一人で歩こうにも身体が震えて足がふらついてしまい、青木さんの腕に身体を預けながら歩くのがやっとだった。
静まり返った車中…
こんなみっともない姿を青木さんに見られるなんて…
気まずい空気に耐えられなくなって、私は気丈に振舞ってみた。
「あはは、変なところ見られちゃいましたね…アフターのお客様だったんですよ…」
「…」
えっ…
「あ、青木さん?」
「家まで送るから」
なんか…怒ってる?…
気まずさが勝って聞くに聞けない。
「…っありがとうございます」
しばらく沈黙が続いた。
ダメだ…そわそわする。気まずい…何か話題…
そうだっ!!
「ところで…どうして青木さんあそこに?」
「…接待の帰りにたまたまゆりを見掛けたんだよ。アフターだと思ったから声掛けなかったけど、怪しい男がゆりに近付いていくのが見えたから念のため気に掛けてたら…トイレに連れ込むのが見えてただ事ではないと思ってね」
「そ、そうだったんだ…偶然ですね。助けてくれてありがとうございました」
「余計なお世話かもしれないけど、深夜1人で出歩いてるときはもっと警戒しないと」
そう言って、優しく私の頭をポンポンする。
さっきの気まずい空気はなんだったのだろうか…
とりあえず今回は、青木さんに間一髪で助けられたから良かったけれど…
いくら常連さんだとしても自分の行動は浅はかだったと悔いの感情が芽生えた。
そして、青木さんの一言から突然真剣なムードに切り替わる。
「もう、いいんじゃないか?」
「っえ!」と同時に青木さんに顔を向ける。
「もうそんなに頑張らなくてもいいんじゃない?」
不思議な感覚…胸にぐっとくるものがあった。
なぜそんな優しい言葉を…
「あそこが私の居場所だから…」
「旦那がいてもゆりの居場所はあのお店なの?」
答えは一つのはずなのに、私はその質問に答えることができなかった。
「ごめんな、余計なお世話だよな。ただ…あんな目にまで遭って、それでも自分の居場所って…なんか違う気もするけど」
「私…私が私で輝けてる場所だから。たとえそれが偽りの世界だったとしてもこの世界から出たら私にはまた居場所がなくなるような気がして…」
私なんでこんな話を青木さんにしてるんだろう…
「なら、俺の世界に来るか?」
俺の世界?どうゆうこと…?
その言葉の意味が全く理解出来ず、私は青木さんを見つめる。
「明日の15時、いつものカフェに」
青木さんはそれ以上は何も言うことはなかった。
“俺の世界”その言葉が頭の中を混乱させた。
そして翌日、約束の15時に一足先に到着する。