アンサンブル ~翔
「お母様に言うの?抗がん剤って、副作用が強いんでしょう。」
母は 父の顔を見て言う。
「言わない訳に、いかないだろう。」
父は翔の方を見る。
翔は速水先生と頷き合って
「お祖母様に 言わないと、治療は難しいよ。隠していると かえって お祖母様が 不安になるからね。」
と言う。速水先生も頷き
「ご本人には、抗がん剤の効果は 十分に期待できると 伝えましょう。」と言う。
「お母様は。母は、そんなに 悪いんでしょうか。」
母が聞く。速水先生は頷いて
「全力を尽くしますが。全快は 難しいと思います。」
と静かに言う。
「母には、どのくらいの時間が 残っているのですか。」
気丈に 父は聞く。
「体力次第なので。何とも言えませんが。多分、お正月を 迎えることは 難しいと思います。」
速水先生の言葉に 母は身震いして 祈るように両手を合わせた。
父は小さく
「そんなに早く。」と呟く。