アンサンブル ~翔
「お祖母様。家に帰りたいね。」
車椅子の少年の年頃、翔は どれほど幸せだったか。
当たり前のように、感謝をすることもなく 過ごしていたけれど。
翔は健康で、家族の愛に 包まれていた少年時代を振り返る。
「翔。たまには 家に帰って お母さんに 顔を見せておいで。お祖母ちゃんは ここでの生活 結構 気に入っているよ。」
お祖母様は 明るく言う。
翔は驚いて お祖母様の顔を 覗き込む。
「先生も看護師さん達も、みんな親切で。毎日、家族は来てくれるし。それに 翔がいるから。お祖母ちゃん 全然 寂しくないよ。」
どうしてお祖母様は こんなに強くて、こんなに優しいのだろう。
翔は 黙って頷くことしか できなかった。