青春ヒロイズム
「俺と智ちゃんちって家が近くて、親同士も俺らが幼稚園入る前から割と仲良かったんだよね。だから、俺が智ちゃんに対して特別に見えるなら、それは妹を気にかけてる感じに近いのかも」
「そう、なんだ……」
中庭のベンチで星野くんとふたりきり。
星野くんはどうして急に改まって私にこんなことを話し出したんだろう。
反応に困って飲みかけのレモンティーの紙パックの角を落ち着きなく指でなぞっていると、星野くんがカフェオレのストローを咥えたまま私を見て首を傾げた。
「小学生のときに智ちゃんに『トンカ』ってあだ名がついたの知ってる?」
それまでの話となんの関係があるのかわからないけど。脈絡なくそう訊ねてきた星野くんに、戸惑いながら小さく頷く。
石塚くんや槙野くんは、今も村田さんのことをそのあだ名で呼んでいる。
そこに悪意はなさそうで、村田さん自身もそう呼ばれることを特別気にしている様子はない。
でも、野宮さんや持田さんが村田さんのことを陰で『トンカ』と呼んでいるときの意味合いは、石塚くんや槙野くんたちが呼ぶのとはわけが違う。
野宮さんたちが『トンカ』と呼ぶときは、明らかに村田さんのことを馬鹿にするような意味合いが込められていた。
「智ちゃんのことをからかって『トンカ』って最初に呼び出したのって実は憲なんだよね。それを聞いたクラスの他の男子が面白がって、広まってったんだよ」
私もそのあだ名には聞き覚えがあったし、元々村田さんがそのあだ名で呼ばれ始めたのは小学生時代の彼女の体型に対するからかいだったのは知っていたけど。
きっかけが槙野くんだったとは知らなかった。