青春ヒロイズム


嫌なあだ名をつけてきた男の子と付き合ってるなんて、村田さんと槙野くんの間にどんなことがあったんだろう。

さっきみんなで教室で勉強していたときも、ふたりは仲良さそうに話していた。

ふたりのことを考えていると、それに気付いたのか星野くんが笑った。


「智ちゃん、嫌なあだ名で呼ばれたりからかわれたりしても、みんなの前では笑いながら聞いてるくせに、学校の帰り道でひとりになるとこっそり泣いてんの。だから、俺だけは智ちゃんってずっと呼んでる」

星野くんが優しい顔でそう言ったとき、胸の痛みと息苦しさを感じた。

星野くんがいくら村田さんへの恋愛感情を否定したとしても、村田さんのことを話すときの優しい表情や口調が彼女への好意を肯定しているようにしか思えない。

そのことに気付いていない星野くんに、すごくモヤモヤしてしまう。

始業式の日に教室で再会したときから、村田さんを呼ぶときの星野くんの呼び方に何か特別な意味があるような気がしていた。

レモンティーの角をなぞる指先に、無意識に力がこもる。

私、どうしてこんな話を星野くんから聞かされ続けてるんだろう。

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