青春ヒロイズム


複雑な想いできゅっと口端に力を入れてうつむいたとき、星野くんが上履きの先で足元の短い草を軽く蹴った。


「今は小学生のときについたあだ名のことなんて全然気にしてないみたいだし、からかってた憲のこと好きになってたりするからいいんだけど。智ちゃんがそもそもあだ名のこと気にならなくなったのって、深谷に声かけられたからなんだって」

「へ?」

このまま星野くんから村田さんの話をしばらく聞かされ続けるのかと思っていたから、いきなり登場した自分の名前に驚いた。

不意打ちを食らって、思わず出してしまった間の抜けた声と共に顔をあげる。

声だけじゃなくて、ぽかんと口を開けた私の顔も充分に間抜けだったんだろう。

星野くんが、いつかと同じように表情を崩してくしゃっと笑った。


これまで話題の中心は完全に村田さんだったのに。

気を抜いているときに、そんなふうに笑いかけてくるのはズルい。

いろいろ恥ずかしくて、間抜けにぽかんと開けた口に慌てて両手をあてる。

それを見た星野くんがクスクス笑うから、両手で口を押さえたまま、赤くなって目線を下げた。


「私が村田さんと小学生のときに親しく話したことなんてほとんどないよ?同じクラスになったのだって、二回くらいだと思うし」

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